センチメンタルシティ
真っ白な封筒を郵便受けから取り出し、玄関先で突っ立ったまま、僕は裏に表にひっくり返す。署名は書いていない。至って普通の、シンプルな真っ白い封筒だ。封は糊付け、切手も四角く、鳩が描かれている一般的なもの。宛先の所に住所変更のシールが貼ってあったから、大学の関係者ではなさそうだ。そうなると可能性は絞られてくる。高校か中学校の頃に出会った人物と断定して間違いないはず。でもどうしてそんな人が、いまさら僕なんかに手紙を出したのだろう。もともと本とディスプレイが友人のような生活をしていたのに、僕に手紙をくれそうな人との交流なんか……。
とりあえず靴を脱ぎ、だれも居ない空間に向かってただいま、と声をかける。もちろん返事なんか期待してないし、返ってきたら侵入者の存在を疑うか、自分の中に眠っていた霊感が目覚めたとしか思いようがない。どちらも心底遠慮したいとんでも体験だ。
パソコンデスクの椅子に腰かけ、慎重に封を切る。いささか汚くなってしまったが中身が読めればいいだろう。
白い封筒から出てきた便箋も真っ白で、紙の上にはパソコンで打ち出した無機質な字が飾ってあった。便箋は二枚入っていて、一枚目の一番上には僕の名前が書いてある。最初の行に、”拝啓 暑い日が続いていますね、いかがお過ごしでしょうか。”という書き出しが踊っていた。
高橋 透 さんへ
拝啓
暑い日が続いていますね、いかがお過ごしでしょうか。
このたび、三年五組の同窓会を開く次第となり、連絡をさせていただきました。
まだ卒業してから1年半ほどしか経過していませんが、納涼会もかねての同窓会を開催いたします。参加される場合は下記の日時・場所へお集まりください。
皆さんのご参加、心よりお待ちしております。
記
日時 2012.8/5 19:00
場所 居酒屋 センチメンタルシティ
以上
追伸 小規模な同窓会ですので、どうぞお気軽にご参加ください。
敬具
二枚目には地図がカラー印刷されており、会場となる居酒屋に星印がついていて、各々の交通機関でのアクセスが記されている。
同窓会兼納涼会までは、あと三日だ。
行くべきか、行かざるべきか。淡い期待を抱いても、いいのだろうか。
もしこの催し物でまた、会えたら。そう思って、いいのだろうか。
作品名:センチメンタルシティ 作家名:もの