センチメンタルシティ
上等でリーズナブルなイタリアンを胃に詰めて、帰ろうかという雰囲気になった。
ここから駅までは歩いて十数分の距離にある。陽はかげりつつあるが、相変わらずアスファルトを踏みつける僕らの事をじりじりと焼き付けて、汗をかいた。どこかではもう蝉が鳴いていて、余計に体感温度を上げている。つい数時間前までは雷雨だっただろうに。
僕と薫が出会ってから、二回目の夏だった。
「今日はわざわざありがとう。ほんとうに助かったわ」
おもむろに彼女が口を開く。俯いて自分の靴先を見つめ、頬にかかる短い髪をときおり掻き上げるも、すぐにまたさらさらと薫の頬に落ちていた。
「でも映画観てご飯食べただけだし、こんな僕で良かったらいつでもご一緒するよ。肇も連れだってさ」
はにかんだ顔を浮かべながら、僕はぼそぼそ喋る。
僕らは恋人同士じゃない。あくまで同じ教育課程にいるだけ。いわばお友達。青春だ。
「そう? じゃあ今度は三人でウインドウショッピングね」
俯いていた顔をふっとあげて、嬉しそうに微笑みかける。
三人。僕にはちょうどいい人数だ。
他愛もない会話をしているうちに駅に着いて、僕らはそれぞれのホームヘと向かうべく別れのあいさつを交わす。また明日、って言って手を振るだけ。
見上げた駅の時計は、六時過ぎを指している。僅かに薄暗い気もした。僕の乗る電車はもうじきこの駅へ入ってくると、電光掲示板とアナウンスが告げる。
「じゃあ、また明日」
「うん、また」
手を振る薫に僕も応えてから、背を向けて反対側のホームへ。
向こう側にいる彼女と目が合い、軽く手を振る。間もなくして僕のいるホームへと電車が到着した。薫のいるホームにも急行電車がやってくる。僕を乗せた普通電車は、発車する。
三人で迎え、過ごす初めての夏。
家に帰ると、郵便受けに一通の手紙が入っていた。
作品名:センチメンタルシティ 作家名:もの