センチメンタルシティ
事務室というのは、カウンターのすぐ横に取り付けられている小さなドアの向こうにあった。白い壁に白い床、LED電球がスチールの長い事務机と事務椅子を照らしている。
「そのうち店長が来ると思います。そこの椅子にお座りになってお待ちください」
店長……、あぁ、さっきの老紳士か。合点のいった僕は、ありがとうと言って促されるまま椅子に座った。彼女は僕を部屋に残してカウンターへと戻り、入れ違いに店長が微笑しながら入ってくる。
「それで……、高橋くん。君は今いくつだね」
僕の向かいに腰を下ろし、肘をついて指を組んでその上に顎を乗せて、尋ねてきた。面接か何かだろうか。
「えっと、19です」
「へぇ、じゃあ薫と同い年なんだな。家はここから近い?」
ぴしりと背を伸ばし、両手に拳をつくって膝の上に置いている、いわゆる堅苦しい姿勢の僕とは対照的な店長は質問を続けた。
「そうですね、歩いてだいたい10分かかるかどうか……」
「そうか。大学生? 専門学生? それとも短大生か?」
そんなこと聞いてどうするのだろう。
不思議に思いながらも大学生です、と答える。これでバイトできるかどうかが決まるのなら、それなりに礼儀正しくしないといけない。それでも声の小ささは否めないのが残念だ。
「君、もしかして一駅先の大学かい?」
「えぇ、そうですけど……」
「薫と同い年で学校も同じなのか。それなら君にバイトをぜひお願いしたいねぇ」
にこにこと人の良い笑みを浮かべて右手を差し出してくる。握手を求められたのだ。
「こ、こちらこそよろしくおねがいしますっ。僕、一生懸命働きますっ」
思わず立ち上がり、僕はその手を握った。
作品名:センチメンタルシティ 作家名:もの