【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘
「ここ見たことあるわ。でもなんだか違う気がする…そうよ違う気がするわ」
「…夜だからだろ…ほらここ登れば京助ん家だ」
坂の下から坂の上を見て言うヨシコに中島が返す
「こっからなら大丈夫だろ…いくら半端ねぇ方向音痴だからって」
「なっ…私は方向音痴なんかじゃないわっ!! そうよ違うんだからっ!!」
「へいへい」
怒鳴るヨシコを中島がさらっと流した
「んじゃな」
「あ…」
片手をあげて中島がヨシコに背を向けるとヨシコが手を伸ばした
「…なんだよ」
「あ…っ…の…」
ヨシコの手が中島の服を掴んでいた
中島の鼓動が早くなる
逃げ出したいような気持ち
でも逃げ出したいとは違う気持ちもあって
「吉祥」
突然ヨシコを呼んだ声に中島までもが顔をあげた
「久しぶりだな吉祥…阿修羅達にはヨシコって呼ばれてるみたいだな」
暗い坂道から足音が近づいて来る
「り…」
「京助の…」
やってきたのは竜之助
「おかえり。中島もありがとうな」
「いや…別に…」
ちらっと中島がヨシコを見た
中島の後ろに隠れるかのようにしているヨシコ
ヨシコが恋していると話してくれた相手が目の前にいる
京助の父親
強い力をもっているという竜
自分はヨシコがたぶん好きで
ヨシコは竜に恋していて
竜は竜之助という名前で京助と悠助の父親でハルミさんの旦那で
いわゆる【一方通行】な想いが逆戻りしてくる
想っても報われない
「んじゃ…俺帰るから」
ヨシコの横を通りすぎた中島
「ゆ…」
振り返ったヨシコが走っているわけではないのにすぐに見えなくなった中島の姿に今まで自分の歩幅に合わせていてくれたのに気づいた
「…柚汰…」
「阿修羅が待ってるぞ吉祥」
竜之助に言われてヨシコがゆっくり坂道をのぼる
ブカブカのジャージからする中島の匂い
「お前は吉祥である前に自分であるんだぞ吉祥」
ヨシコがコアラのマーチを握りしめた
「りゅー様…私…」
「大丈夫だ吉祥」
振り向かず立ち止まった竜之助
「私…っ…」
ヨシコの声が震えていた
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘 作家名:島原あゆむ