【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘
濡れた睫毛のヨシコの前にはあっかんべーをしているコアラがついたコアラのマーチ
「なに…?」
「食え」
ずいっと中島がヨシコに押し付けるとヨシコがそれを手に取った
「食べれば…いいの?」
「ああ」
「…可愛い…本当に食べていいの? 本当に?」
「早く食え;」
なかなか食べないヨシコに中島が頭をかきながら言うとヨシコが口にコアラのマーチを口に入れる
「美味しい…柚汰美味しいわこれ…」
「良かったな」
中島がヨシコに残りのコアラのマーチを渡すと背中を向けた
「いくぞ」
そして歩き出すとヨシコが隣に並んだ
「…なんだよ」
ちらっと見上げてきたヨシコを中島が同じくちらっと見る
「柚汰も食べる?」
「いらね」
中島が断る
「そう…」
「……;」
寂しそうにうつむいたヨシコを見て中島が少し考えたあと手を出した
「え…?」
「…やっぱ食う」
中島が出した手と中島を交互に見たヨシコが嬉しそうに中島の手にコアラのマーチをひとつ置く
「…サンキュ」
「うん」
コアラのマーチの箱を持って笑うヨシコ
中島が手に乗せられたコアラのマーチを見た
「眉毛ねぇんでやんの」
「眉毛?」
「言っただろ? 眉毛あるコアラ見つけたらいいことあるとかって」
「いいこと? どんな?」
「んなの知らねぇよ;」
クイクイと中島の袖を引っ張って聞くヨシコに少し顔を赤くしながら中島が答える
「とにかくいいことだいいことっ;ほら早くいくぞ」
「いいことって何? そうよ気になるわ!!」
「いいことったらいいことだろ!!; お前にとってのいいことなんだから俺がわかるわけねぇだろが」
「私にとっての…?」
ヨシコが足を止めると中島も足を止めた
「…私にとってのいいこと…」
「あるだろ…こうなったらいいなとか」
「あるわ…そうあるの…」
少し強めに風が吹いてヨシコの長い髪が靡く
ふわっといい匂いがした
「私ね…私になりたいの」
寂しそうに笑いながら言ったヨシコを見た中島は動けず声もかけられずにただヨシコを見ていた
「私に…って…」
数分は経ってたと思う
中島が聞くとヨシコがニコッと笑った
「早くいこ? そうよ早く京助の家に行かないと」
中島の横を通りすぎたヨシコの腕を中島が掴んだ
「柚汰…?」
「…そっちから今来たんだけど」
ヨシコがきょとんとして中島を見た
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘 作家名:島原あゆむ