【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘
矜羯羅から借りた羽衣を肩からかけた緊那羅が石段に座り空を見上げる
田舎ならではの清んだ空気と少ない街明かりのせいで降ってきそうなくらいの星
前に京助達と見た大量の流れ星を思い出す
「流れ星…」
坂田が話していたこと
星は死んだ人で流れ星は生まれ変わる人
生まれ変わるのが嬉しくて願いを叶えてくれるということ
「…操…」
もしかしたらこの無数の星のどれかが【操】なのかもしれない
【操】の体であり自分の体であるこの体
でも自分は【緊那羅】で
自分が知らない自分【操】
自分が知らない京助を知っている自分【操】を羨ましいと思ってしまう
【操】も今【緊那羅】として京助と一緒にいる自分を羨ましいと思っているのだろうか
緊那羅が自分の体を抱き締めた
肩に指が食い込むくらいに強く
ふと話し声が聞こえて緊那羅が立ち上がった
「おいちゃんお腹へった」
「悪かったなーばかも慧光も手伝ってもらったんに」
「いいナリよ。でも見つけられなかったナリ…」
石段の下に姿を見せたのは阿修羅と烏倶婆迦、そして慧光
「あ緊那羅」
烏倶婆迦が石段を上ろうとして緊那羅に気づいた
「おかえりだっちゃ」
緊那羅が石段をかけおりる
「…あ…」
「京助ならいないよ」
「あ…う、ん;」
聞く前に烏倶婆迦が答えると緊那羅が苦笑いをした
「京助まだ帰ってないナリか?」
「うん…」
「ったく…ヨシコはどこいったんきになー;」
阿修羅が石段を登りながらため息をつく
中島に上を見ろと言われて上を見たヨシコが見たもの
今にも降りそうな幾億もの星
「綺麗…」
「ここ穴場」
中島がヨシコをつれてきたのは前に宿題の天体観測をした黒岩尻農道だった
「何これ…」
「星」
「全部?」
「ああ」
空から目をそらさずヨシコが聞く
「こんなの…初めて見たわ…そう初めてよ…凄く綺麗…」
「そか…」
そんなヨシコを見て中島が嬉しそうに笑った
「でも柚汰はどうして私にこんなの見せてくれるの?」
ヨシコが聞く
「別に…見せたかったから」
「どうしてこれくれたの?」
ヨシコがコアラのマーチを見せながら聞く
「別に…いいじゃん」
「もう!! 別に別にばっかりじゃわからないわ!! そうよわからないじゃない!!」
ヨシコが怒鳴った
「わからねぇでいいんだよっ!!;」
中島がつられたのか怒鳴り返す
「嫌よ!! 知りたいわ!! そうよ知らないこと教えてくれるって言ったじゃない!! そう言ったわよ!!」
「教えてやれることはって言っただろ!?」
ぎゃんぎゃんと人気のない農道で繰り広げられる言い合い
「もういいだろ!! いくぞ」
「な…何よッ!! 教えてよ!! そうよ気になるわ!!」
「気にしてろ」
中島が歩きだすとヨシコも文句をいいながら歩き出した
前を歩く中島の背中を見ながらヨシコも歩く
リーリーという虫の声と時折草が揺れる音
街灯がない農道は静かすぎて
空にある星は綺麗すぎて
ヨシコが足を止めた
「…柚汰…」
小さく呼ばれた気がして中島が振り返っるとヨシコがうつむいていた
「なしたよ」
距離は縮めずに中島が聞く
顔はあげず首を振ったヨシコ
「寒いのか?」
ヨシコがまた首を振る
「ヨシコ?」
中島が一歩ヨシコに近づくとヨシコが顔をあげた
「…おま…」
「柚汰…」
今にも泣き出しそうなヨシコの顔を見て中島が驚く
「なしたよ;」
「わっ…わからないわっ…わからないのでもなんだか…っ…」
「ちょ; ヨシコ!?;」
ヨシコの目からポロポロと涙がこぼれたのを見て中島が慌てる
「綺麗なんだものっ…柚汰も優しいしっ…そうよ優しいからっ…」
溢れる涙を拭いながらヨシコが言う
「優しくねぇだろ; つか泣くな;」
「私だって泣きたくないわっ…でも何でか泣きたいのそうよ勝手に涙でてくるの」
どうしたらいいかわからない中島はただ泣きじゃくるヨシコを見る
コトン
ヨシコの足元に何かが落ちた
中島がそれを拾い上げる
ビー…
ガサガサ
という音がして
「ヨシコ」
名前を呼ばれたヨシコが顔をあげた
作品名:【無幻真天楼第二部・第二回】星が丘 作家名:島原あゆむ