流れ星に願いを
「紲、眠いの?」
烏誡がもう一度口を開いたのは、疲れてきた紲が小さな石に躓いて転びそうになった頃だった。
時の止まった夜の町で、自分以外の人を探して、ずいぶん歩き回ったのだろう。紲は疲れて眠そうで、足取りがふらふらとおぼつかなかった。
烏誡は半分眠ってしまっている紲を背負うと、小さなランプを吹き消した。
「どうして、消すの?」
夢うつつの紲が不思議そうに声を掛けると、烏誡は苦笑を漏らした。
「光には、嫌われるたちなんだ」
ランプの灯りがなくなり、月明かりだけが辺りを照らす。けれど、闇は紲の思うよりずっと薄かった。まるで、烏誡から距離を置いているように。
烏誡はその薄闇の中を、危なげもなく歩いていく。
「最後に、星に祈りに行くところだったんだ」
しばらく無言でいた烏誡が、ぽつりと呟いた。
「……うん」
今にも眠り込んでしまいそうな紲の返事は、弱々しい。烏誡は、それを気にする様子もなく続ける。
「星に祈って。そうしたら、喪は明けるから」
紲は聞いているのかいないのか、微かに頷く。
「日が昇って、明日が来て、そうしたら…」
そうしたら、どうしようか。主となる人は、もうこの世にいない。
烏誡はふと足を止めて、視線を上げた。月明かり。星明かり。満天の夜空は、何も答えてはくれなかった。
「私、も…」
小さな声が、背後でした。
「私のおばあちゃんも、この間、居なくなったの」
「…え?」
泣いているのか、それとも眠いだけなのか。紲は小さな手で目元を擦りながら、言葉を続けた。
「おばあちゃんは、烏誡がいたあのお屋敷に一人で住んでいたの。でも、もう亡くなったんだって」
「本当に?」
突然、烏誡が大きな声を出した。驚いた紲は烏誡の背中で体を強張らせたが、すぐにまたぼんやりとした口調に戻る。
「おばあちゃんが、お屋敷を私にくれたんだって。それが、ユイゴンなんだって。でも、お父さんもお母さんも、すごく怒るの…」
眠ってしまったのだろう。紲の声は、それっきり聞こえなくなった。
「そうか」
薄闇の中で、烏誡がふと、口元を緩めた。紲がどうしてここにいるのかが、わかった。
「そういうことか」
もう一度呟いて、烏誡は再び歩き始めた。丘の頂は、すぐそこだった。