流れ星に願いを
名前を呼ばれて紲が目を覚ますと、丘の上だった。見渡す限り、星空が広がっている。灯りのない町は、暗い影に沈んでいる。
月が大きい。星が多い。見たこともないような、夜空だった。空に見入る紲の視界の端を、不意に光が走った。
「流れ星っ」
紲が嬉しそうに声を上げる。その隣で、烏誡が頷いた。
「流星郡だよ」
夜更けの空を、小さな光が流れては消えていく。次々に。それはまるで、光の雨のようだった。
「最後に、祈りたかったんだ」
小さな願い事。安らかであるようにと。
「これで、お別れだ」
烏誡はそう言って少し淋しそうに、空の東側を指差した。空の端。地平線に近い辺りが色を変えていく。夜が去ろうとしていた。日が、昇ろうとしていた。
「これから、どうするの?」
紲が、どこか遠慮がちに尋ねた。烏誡はそれには答えずに口元を緩めると、あの緑色のガラス玉を取り出した。
「これは、紲が持っていた方がいい」
明けていく空の下で、紲はきょとんとした表情を浮かべた。
日が昇って、明日が来て、そうしたら。烏誡は口元を緩めたまま、静かに言葉を続けた。
「紲。君のおばあさんは、とても優しい魔女だったよ」