「レイコの青春」 40~最終回
市役所へ向かう道中では、助手席に座っている美千子を覗きこんで、
陽子が、肩越しに声をかけます。
「ねぇねぇ、美千子さん・・・
先ほどまで靖子さんと話をしていた、
レイコさんのために、ひと肌を脱ぐっていうお話。
あれって、いったい何のことですか?」
「この子ったら・・・余計なことを。
本当になんでも自由奔放に、ペラペラしゃべりまくるわね。
秘密もなにも、ありゃしない。
まァ、この際だからもういいか、
10年ぶりに、中学の同窓会を開こうかと、
靖子たちと相談をしているところなの。
レイコも、無事に保母さんになれそうだし、
ずいぶんと頑張ってきたんだもの、
そのご褒美というところかな。」
「同窓会を開くということが、
何で・・・
レイコさんへのご褒美になるんですか?」
「あんたねぇ・・・
何にでも首を突っ込むその性格は、良し悪しだよ。
まあ、それが陽子たるゆえん言えばそれまでだけど。
レイコにはねぇ、
長年、心に秘めた意中の男性が居るの。
それがねぇ・・・
中学時代には、自分の幼馴染に遠慮をして、
わざわざ橋渡し役を、自ら買って出た上に、その破局が決まっても、
今度は自分の番ですと、しゃしゃり出ることができないでいたの。
それで、そのあと、一体どうしたと思う?
何も言えずに、
その男を、そのまんま放浪の旅に出してしまったのよ。
まったくお人よしすぎるわよ、レイコったら・・・
もう離れ離れで、かれこれ4年が過ぎたかしら。
この辺で手を打っておかないと、
もう戻ってこないかもしれないから
同窓会を口実にして、「そいつ」を呼び戻そうという計画なの。
ほうら、ごらん!
レイコには全部、内緒だったというのに、
あんたが首をつっこむんだせいで、
計画が全部、ばれちゃったじゃないの。
この、おせっかい女!」
怒られた陽子が、
運転席の背もたれに、なぜか顔を伏せてしまいました。
急に静かになってしまった陽子の様子を心配して、レイコが
陽子の背中に手を置きます。
温かい陽子の背中が、小刻みに震えていました。
作品名:「レイコの青春」 40~最終回 作家名:落合順平