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「レイコの青春」 40~最終回

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 「あたしもねぇ・・・
 北関東でも指折りと数えられた花街のひとつ、
 仲町通りで、すでに半世紀以上も、
 その移ろいぶりなどを見てまいりました。
 時代の波と言うのか・・・
 歓楽街の仲町通りがさびれていくのを一人でさびしい思いをしながら、
 何もできずに、ただ移り変わりを眺めているだけでした。
 そしたら、その仲町に、
 水商売の人たちの子供を預かってくれるという
 共同保育園が出来たっていう噂を、たまたま知人の一人から聞きました。
 そりゃあもう、大変にびっくりいたしました。
 こう見えても、私は仲町で生まれて育った、生粋の桐生っ子です。
 ずいぶんと思いきったことが始まったもんだと
 実は最初から、注目をしておりました。
 亡くなった園長先生のお仕事場へ、何度も訪ねては、
 お茶などもご馳走になりました。
 この歳になってから、園長先生のおかげで、
 ずいぶんといろいろ、保育についても教えていただきました。」


 「園長先生をご存じだったのですか。」



 「女が、今の時代に、
 一生通して働き続けることの大変さと
 働きながら、子供を産んで育てることの大切さを
 やさしく・あつく語ってくれた、そんなお方でした。
 何かあった折りには、お役に立ちたいと、
 私が密かに思ったほど・・・
 あの園長先生というお方には、
 実に、たかい志(こころざし)と、信念がありました。
 けしてやさしくない道を、頑張り抜いた女性のひとりだと思います。
 仲町に生きてきた多くの女たちだって、それはまったく同じです。
 お座敷で働きながらも、女たちは子供を産み、かつ育ててまいりました。
 しかし商売柄、そのことで所帯臭くなってはいけません。
 いっそう芸に励んで、みなさんがともに必死で、自分と芸を磨きました。
 粋な芸者として、きちんとお座敷でお仕事をつとめあげてから、
 家に戻って、また必死で子供たちを育てました。
 住む世界がまったく別々とはいえ、女としての想いは一緒です。
 実に、共感する事がらが多く、
 この人の力になりたい・応援をしてあげたいと
 わたくしが、心底思ったかけがえのない人物の一人でした。」


 「母を・・・私の母を、
 それほどまでに、ご存じだったのですか。」


 幸子が背後から声をかけました。
八千代母さんが、振り返ります。
細くなっていた目を、さらに細めて幸子を迎え入れました。


 「はい。
 あなたの、お母さんは、
 実にすばらしい人でした。
 惜しい人を早くに亡くしてしまいました。
 なでしこのその後は、どうなることになるのやらと、
 私も、遠くから心をいためておりました。
 後に残ったあなたたちが、園長先生の意思を継いで
 動き始めたと知った時には、実は・・・
 失礼ながら、またひとつ、心配の種が増えてしまいました。
 20歳そこそこの女だけの集団が、厳しい世間を相手に、
 やったこともない大きな事業を立ち上げるなんて、
 正直、上手くいくとは、とても思えません。
 熱意だけでは動かないものが、世間には山ほどもあります。
 しかし若さというものは、やはり、それを上回る力を持っていたようです。
 ひとりではできないことを、
 あなたたちは、チームワークという力で乗り切りました。
 大切なことは、人と人とが繋がりあうことです。
 かつての芸妓たちは、桐生の芸者たちのために組合を作り、
 何度となく、その存続の危機などを乗り越えてまいりました。
 ばらばらになるかと思われたなでしこも、また同じように
 この困難を、見事に乗り越えてきたようです。
 ・・・私の出る幕は、ありませんでした。
 眺めているだけで、大丈夫だと思い始めていました。
 そんな時です。
 この子が、美千子さんが、突然私を訪ねてきました・・・・
 つい最近の話です
 ・・・・美千子さんが、泣きながら、私のところにやってまいりました。
 なでしこの皆さんが、行き詰まったころの事でしょうか、、
 ちょうど何もかもが、停滞をしてしまったように
 見えたころだったでしょうか。
 なでしこの窮地をなんとかしたいけど、今の私には何もできません。
 それでも、なんとかしたいので、どうぞ力を貸してくださいと、
 泣きながら、私の処へやって来ました。」