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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~・其の二

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 とうとう追いつめられた千寿は絶望の声を上げる。再び抱き上げられ、褥へと運ばれながら、千寿は大粒の涙を零した。
 逃げたいのに、逃げられない―。
 襟元をグッと力を込めて開かれたかと思うと、再び男の貌が近付いてきた。小さな胸の尖りを強く吸われた刹那、千寿の身体にこれまで体験したことのない感覚が走った。あるときは強く、あるときは舌で優しくなぞるようにと、嘉瑛は口で千寿の小さな胸を思う存分愛撫した。
 死ぬほど厭なのに、何故か、胸の先端を吸われ続けていると、身体中を得体の知れない妖しい震えが駆け抜けてゆく。
 その未知の感覚がそも何なのか。そのときの千寿にはまだ知る由もなかった。
 涙の滲んだ眼に、天井がぼやける。ふと、覆い被さっていた嘉瑛が身を離した。やっと辛い責め苦から解放されたのかと千寿が安堵した時、嘉瑛が自らも帯を解き、夜着を脱ぎ捨てた。屈強な身体が現れる。
 流石は戦国最強のもののふ、戦神と呼ばれるだけあって、鍛え抜かれた均整の取れた身体は見事なものであった。
 嘉瑛はこの時、二十七歳になっている。十五歳のまだ声変わりもしておらぬ千寿と比べるべくもない。それでも、間近で完成された大人の男の肉体を見、千寿は己れの身体がいかにも貧弱なように思われた。
―私は背も低いし、痩せっぽちで、まるで子どもだ。だから、ろくに抵抗もできず、こんな男に良いようにされてしまう羽目になる。
 所詮、自分のような子どもはこの男の相手ではないのかと思うと、情けない。
 そんな想いに浸っている千寿の前で、嘉瑛は下帯まで取り、本当に素っ裸にになった。
 呆気に取られている千寿を意味ありげに見つめ、嘉瑛がニヤリと卑猥な笑みを浮かべた。
 嘉瑛がまともに千寿の方を向くので、見たくもないものを見せられることになり、千寿は慌ててそっぽを向いた。
「さあ、本当のお愉しみは、ここからだ」
「えっ?」
 千寿はもうこれでおしまいかと安心していただけに、顔色が変わった。
「何をするの―?」
 そう思わず訊ねてしまったその声は、自分でも恥ずかしいほどに稚(おさな)かった。
「千寿、恥ずかしがらずにこちらを向け」
 促され、何気なく振り向いたその先を見て、千寿はヒッと顔を強ばらせた。
 先刻はろくに見もしない中から顔を背けてしまったけれど、嘉瑛の下半身で雄々しく力強さを誇っているそれは、同じ男である千寿にも馴染みのあるものだ。だが、その嘉瑛自身は、自分のものとは比べものにならないほど隆と屹立していた。
 千寿の顔が見る間に蒼褪めた。
 これから嘉瑛が何をしようとしているか判らないなりに、自分の身がとんでもない状況に直面しているのだけは判る。本能的に危険を察知したのだ。
 俄に烈しい恐怖を憶え、千寿は腰を浮かした。身を翻そうとしたところ、背後から嘉瑛に抱きすくめられてしまった。
「い、いやだっ。怖い」
 千寿は泣きながら、渾身の力で抗った。
「泣くな。泣くようなことではない」
 嘉瑛は宥める口調で言い聞かせ、千寿の両脚を大きく開脚させ、胸に腹を押しつけるような格好をさせた。くの字に身体を折り曲げるこの体勢はかなり苦しいものだった。
 初めて男を受け容れる千寿の身体のことなど、嘉瑛は少しも考えてはいなかった。突如として背後のやわらかな双つの双丘の狭間に固い嘉瑛自身を突っ込まれ、千寿は喉が嗄れるような悲鳴を上げた。
 臀部を熱した鉄棒でかき回されているかのような激痛が走る。以前、嘉瑛から背中に灼き鏝を当てられるという折檻を受けたけれど、もしかしたら、今回の痛みの方が強いかもしれない。
「痛い、痛い―」
 一度は止まっていた涙が溢れ、頬を次々に濡らした。
「ん? どうした、痛むのか」
 言葉とは裏腹に、何故か嘉瑛は嬉しげだった。千寿が涙ながらに痛みを訴えると、〝よしよし〟と言いながらも、更に千寿の中に深く強く押し入ってくる。
「あっ、い、痛いっ」
 千寿は大粒の涙を流しながら、下半身を走るあまりの痛みに呻いた。
 泣いて何かに縋ろうとした千寿の身体を嘉瑛が力を込めて引き寄せる。身体を隙間なく密着させると、嘉瑛のものがなおいっそう深く千寿の体内に食い込み、沈んでゆく。
「何で、こんな―」
 涙で潤んだまなざしを向ければ、嘉瑛が黒い瞳に滲んだ涙の雫をそっと唇で吸い取った。
「千寿、可愛い奴だ。俺の千寿」
 嘉瑛が恍惚りしたような表情で呟く。
 面妖なことに、千寿が痛みを訴え、苦悶にもがけばもがくほど、嘉瑛はいっそう機嫌が良くなる。
 嘉瑛が一挙に最奥まで刺し貫いた。だが、千寿は何が起こったのか、まだ判らない。ひときわ烈しい痛みが襲ってきて、千寿は眼の前が真っ白になった。
 何故、自分がこのような辛い目に遭わなければならないのか。
 落城寸前の白鳥の城を逃れ、苛酷な境遇に耐えながらもこれまで生きてきたのは、こんな屈辱を味あわされるためだったのか。
 そう思えば、尚更、涙が止まらない。
ゆっくりと薄れてゆく意識の底で、御仏の与え給うた宿命はあまりにも理不尽だと、哀しい想いで考えていた。


  
      月明かり



 婚礼の夜を境に、千寿の地獄の日々が始まった。嘉瑛は、千寿を人眼もはばからず寵愛した。
 夜毎、寝所に嘉瑛を迎える度、千寿は厩で寝起きしていた頃を懐かしいとさえ思った。
 嘉瑛の愛撫は執拗で容赦がない。朝にはぐったりとして褥から出られぬほど、烈しく責め立てられるのは珍しくはなかった。
 ある夕刻、嘉瑛がいつものように千寿の許を訪れた。嘉瑛がこの時間に姿を見せるのは何も今日に限ったことではない。ふらりと思い出したように夕飯刻に現れ、千寿(表向きは正室万寿姫)の居室で差し向かいになって夕飯を食べることも再々あった。
 その日、嘉瑛はいつになく上機嫌であった。いつもならば、千寿が沈んだ顔をしていようものなら、たちまちにして不機嫌になるのに、その日は一人で喋り、笑った。主人のこのような気紛れには慣れているはずの侍女たちも、こんなときはまるで不気味なものを見るような眼で嘉瑛を見ている。
 というのも、このように急に上機嫌になった後は、また必ず揺り返し―つまり、烈しい癇癪の発作を起こすからだ。侍女たちは殿お気に入りの奥方にすべてを押しつけて、さっさと下がってしまった。うっかりして、嘉瑛の機嫌を損ねでもしたら、即刻首が飛ぶか無礼討ちにされてしまう。危うきには近寄らずの方が賢明というものだと皆、心得ているのだ。
 千寿に酌をさせながら、嘉瑛は幾度も杯を重ねた。
 嘉瑛はかなりの酒豪だ。その日も浴びるように酒を呑んでも、ほろ酔い機嫌にもなっていなかった。幾ら呑んでも機嫌が良くなればまだ救われもするが、彼の場合、呑めば呑むほど醒めるらしい。しまいには眼が座り、これまた些細なことで難癖をつけては周囲の人間を振り回す。また、酒が入ると気が高ぶるのか、女を抱こうとするのも彼の性癖であった。
 案の定、その日も杯を重ねてゆく中に、嘉瑛の眼の淵は紅く染まり、顔は蝋のように白くなった。
「お万、もそっと近くに参れ」
 嘉瑛は最近では千寿を〝万〟と呼ぶようになっていた。万寿という名を短く縮めたものらしく、彼はこの呼び名が随分と気に入っているようだ。