うこん桜の香り
いくら反省しても、後悔した所で、仏前に手を合わせても、どうにもならない事であった。
稔は自分に誓った。死んだ気になって、波子の分まで行きぬいて、波子の生きた証のために、うこん桜の並木を造ろうと。
稔は植木職人になるため、造園業に就職した。
そして、百合とは正式に離婚をしたのである。
百合は稔と離婚したが再婚する気にはなれなかった。
白衣を身に着けていると、患者には優しく見えるのだろう、ひとり者だと解ると、何人かの患者から付き合いたいと申し込まれた。百合はすべて断った。
このままで暮らしていこうと決めていた。
そんな時、西山から電話があった。
(見せたい絵があるので会いたい)と言うのだ。
百合は休みの日に会う約束をした。
当日になり、鏡の前に座ってみると、胸の高鳴りを感じていた。化粧も丁寧にしたのである。