うこん桜の香り
春に向かって
波にのまれて、稔はもがいている時、波子が海に飛び込んだような記憶があった。
波子は自分を助けるために、洋服を着たまま飛び込んだに違いない。
ろくに泳げもしない癖に、何で俺を助ける気になったんだ。
俺はお前を犯そうとしたんだ。パパなんかじゃない。
犯罪者の男なんだ。
お前ならそうかもしれないな。溺れかかっている人がいれば、誰にでも飛びこんでいたな。
もっと、もっと泳ぎを教えておけばよかった。
お前の名前を付けたのはパパだよ。
泳ぎが上手くなるようにと付けたんだ。
なんでさ、悪人の俺が助かって、無垢なお前が死んでしまうんだ。
この世にさ、神様はいないのかよ。
稔は波子が自分の子であることを知り、気が狂いそうに苦しんだ。