うこん桜の香り
百合はこれ以上、波子の死の詮索は止めようと思った。
以前病室で患者の自殺があった時、疑う気になれば、何人かの患者がいた。百合自身でさえ殺す事はたやすく出来た立場なのだ。ただ誰にも確たる動機が無い。
人の命を奪うにはそれなりの動機があるはずである。
果たして川田先生に波子を殺すだけの動機があるのだろうか。
いくら自分の娘とは言え、やたらに疑うことはできないと反省した。
川田先生が関係無いとすれば、もう疑う人はいないことになる。殺されることより、自分で死を波子が選んだとすれば、それなりに諦められる気持ちに落ち着いた。
百合は仏前に座った。
笑顔の波子がいる。あまりにも早い別れに、波子は涙がとめどなく流れた。
波子の死が昨日のように感じられたのである。