うこん桜の香り
10分もすると波子は落ち着いてきた。父親にいつも見られているようなものだと感じた。
「この絵どうするんですか」
「上手く描けたら展覧会に出す」
「嫌です、それなら顔は似せないで書いてください」
「それは解ってる」
「安心した」
「このことは誰にも言うな、親にもだ、2人の秘密だからな」
「はい」
「デッサンが出来た。終わりだ。洋服を着でいいぞ」
川田に言われるままの波子であった。
波子は波子で川田に期待もしていた。この秘密を持ち続けることで、川田先生が自分1人の者になるかもしれないと考えたのだ。
3日が過ぎた。
「駄目だ、駄目だ」
川田は自分の思ったように絵を仕上げることが出来なかった。