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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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うこん桜の香り

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月に一度の波子の墓参りには、どんなに雨が降ろうと、寒くても、暑くても百合は歩くことにしていた。
寺までは5キロほどの道のりであった。
8月10日は波子の三回忌の一日前であった。看護婦をしている百合は、休暇を取らなかった。別居中の稔と顔を合わせることが不快であった。それに担当の患者の事も大事であった。
日差しの強い日である、歩く負担を考え、日傘を持たずに来た。1キロも歩くと、日陰を選んで歩いていても、汗が噴き出していた。
私鉄の駅を通り過ぎると、渡良瀬川である。川から吹き上げてくる風が百合の汗を運んでくれた。百合はシャツを指でつまみ、その風を体に入れた。
橋を歩いているのは百合1人であった。橋を渡り終えると、百合は波子の好物の、ケーキを買うことにした。寺に行くには少し遠周りになるが、波子に喜んでもらいたいと考えた。
作品名:うこん桜の香り 作家名:吉葉ひろし