うこん桜の香り
絵
昭和から平成と年号の変わった初秋、西山明は左目の視野が狭くなり、網膜剥離と診断された。
その日のうちにG医大病院に入院した。
アイマスクで目を覆われ、砂袋で頭を固定された。身動きもできず、ベットに寝ているだけである。
闇の世界で体が動かないと、余計なことばかりを考えていた。
夜になり、病室が静かになると、同室の患者のいびきでさえ安心させられた。
そんな明を勇気ずけてくれたのは、水田百合であった。明は手術を待つ3日間の間、二十歳の青年のように百合に恋をした。
手術が成功して最初に見る者が百合であることを願った。