うこん桜の香り
そんな話をしているうちに、目的の画廊に着いた。
「非売品ですがこの絵です」
「これは僕の絵ですよ。どうしてここにあるのかな」
「先生がお描きになったのですね」
「サインは本名じゃないんです」
「そうでしたか」
この日はこの間の店番の男ではなかった。
百合はこの絵が波子であると確信した。
しかし、波子がどこまでこの教師を好きだったのかが知りたいのだった。
百合は波子の残した佐渡の絵に、少し不自然な所があるように感じていた。
休みの日にその絵を持って、西山のいる東京に行った。
喫茶店で会い、絵を見てもらった。
「この空と海のタッチは違います」
「そうですか」
「外の明るい所で見ましょう」