うこん桜の香り
男は西山明と名乗った。画家であった。
百合は男の勧めで男の宿に行くことにした。何しろ死を覚悟していたので、宿の予約もしていなかったのである。
濡れたままでは風邪をひくと親切に言ってくれたのである。
その宿は、男の定宿らしくて、女ものの浴衣と袢纏を用意してくれた。
「風呂に入れば体が温まります」
百合は言われるままに従った。
風呂から部屋に戻ると、すでに夕食の用意がされていた。
「いい風呂でしょう」
何か今知り合ったばかりには思えなくなっていた。
「はい、温まりました。おかげさまで」
「ビールどうです」
「いただきますわ」
百合はアルコールは強かった。
「いける方ですか」
百合は笑って答えた。