うこん桜の香り
百合は死ぬのなら、波子と同じ場所が良いと思った。
佐渡に渡った。
夜になるのを待った。5月の連休が過ぎた週である。
観光客もまばらである。砂浜で海を見ていると、波子の事ばかりが思い出されてくるのである。
自然に涙が出てきた。
百合が下を向いて涙を拭こうとした時、大きな波が来た。
百合は除ける間もなく波を被ってしまった。
ハンカチで拭いたくらいでは、衣服の水気は取れるものではなかった。
「どうぞ」
厚手のタオルを差し出してくれた。42,3歳の男である。
「すみません」
死を覚悟していたのに、余りにも素直な自分に驚いた。
男は絵を描いていたのだと言った。
百合は波子が轢き合わせてくれたのかもしれないと感じた。