【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること
襖に手をかけようとしては引っ込める
しばらくしてからまたそれを繰り返す
緊那羅と阿修羅に後押しされて矜羯羅に会いに来たのはいいが襖を開けることができずにいる制多迦
「…ーん…;」
また襖に手を伸ばす制多迦
そしてやはりまた手を引っ込める
決して会いたくない訳じゃない
むしろ会いたい
話したい
でも
矜羯羅は風邪が移るのを嫌がってた
会ったら嫌われるんじゃないか
ぐるぐる回る考え
頭がパンクしそうで制多迦はしゃがみこんだ
今までこんなことなかった
会いたいと思ったら会って
話したいと思ったら話して
触れたいと思ったら触れていた
『そりゃタカちゃん…タカちゃんが変わってきてるってことだな』
「…くが変わってきてる…」
阿修羅の言葉を思い出し制多迦が自分の両手を見た
わきわきと指を動かしてみる
ぎゅっと握ってみる
そして開く
「…はぁ…」
「制多迦」
矜羯羅の声がして制多迦がびくっと肩をあげた
「…いるんでしょ」
「…んがら…」
「どうして入ってこないのさ」
「…って…」
シャッと勢いよく襖が開いた
制多迦が驚いて顔をあげると目の前には矜羯羅
「…んがら…あの…えっと僕…」
うろたえる制多迦を矜羯羅がじっと見る
「…くね…」
会いたかったはずなのにいざ会うと言葉が出てこない沈黙が続く
「制多迦」
呼ばれた制多迦が上目でちらっと矜羯羅を見て止まった
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること 作家名:島原あゆむ