【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること
右手が暖かい
熱があるからじゃなく
ぬくもりという暖かさ
「ん…」
もぞっと体を動かした矜羯羅が目を開けた
ぼやっとしていた視界がだんだんはっきりとしてくる
「僕…寝て…」
体を起こすとぬくもりを感じている右手に目をやった
矜羯羅の手を包む同じくらいの大きさの手
その手の主である制多迦は目を閉じ寝息をたてていた
前なら制多迦が寝るということが嫌いだった
嫌いという表現でいいのかわからないが制多迦が寝れば【制多迦】がやってくる
【制多迦】が寝れば制多迦が起きてそして…
矜羯羅が唇を噛んだ
できるならこの寝顔を守りたい
寝顔だけじゃなく制多迦を制多迦の隣でこれからずっと
【ずっと】なんかあるわけないけど
たとえ終わりが来たとしてもそれまで【ずっと】制多迦の隣で…
「矜羯羅? 起きてるっちゃ?」
少しだけ開けられた襖から緊那羅の声がした
「起きてるよ…制多迦は寝てるけど。何?」
「あ…晩飯だっちゃ」
「そう…ありがとう」
「じゃ…あ…」
緊那羅が襖を閉めようとすると肩から分が飛び降りて制多迦の体を飛び越え矜羯羅の布団に乗る
「…何?」
「ありがとある…昨日いい匂いしたある。あったかかったある」
「別に…」
尻尾を振りながら言った分を矜羯羅が撫でた
「早くくるよろし」
「制多迦が起きたら…ね」
「先いってるっちゃ」
布団から飛び降りた分がまた緊那羅の肩に飛び乗ると緊那羅が襖を閉めた
「…よだれ」
黙って制多迦の寝顔を見ていた矜羯羅が制多迦の口の端しから垂れてきたよだれを見て呟く
矜羯羅が微笑みながら制多迦の頭を撫でた
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること 作家名:島原あゆむ