【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること
「あー…暑ぃ…背中が暑ぃ;」
茶の間から再び台所へ向かいながら京助がぶつぶつ言う
京助の背中にしっかりとしがみついた阿分を見る緊那羅
「本当に懐いちゃってるっちゃね」
「あー…;」
ため息をついた京助が壁に寄りかかった
緊那羅が京助をじっと見る
「…なしたよ」
「えっ; あ…ううん;」
京助が聞くとわたわたと慌てて緊那羅が小走りで台所に入っていく
「…変なヤツ…」
のらりくらりと京助も台所に向かった
羨ましいな と思った
京助にくっついてる阿分が
この前京助に背負われた時のことを思い出すと嬉しいような悲しいようなモヤモヤした気分になった
「緊ちゃん?」
母ハルミに呼ばれて緊那羅がハッと顔をあげる
「どうしたの? そんな慌てて…」
「あ…な なんでもないっちゃ;」
苦笑いで返した緊那羅が茶碗の乗ったお盆を持った
「まだ運ぶもんあるんかー」
京助の声に緊那羅の肩がぴくっと動いた
「あるわよ? これとあと味噌汁の鍋と…」
「んじゃ鍋持ってくわ」
緊那羅の横を通り京助がガスコンロの上の鍋を持った
「ほら行くぞ」
「あ うん…」
止まっていた緊那羅に京助が声をかける
「それ置いたらみんなに声かけてね」
「わかったっちゃ」
「へいよ」
京助と緊那羅が揃って返事をした
「俺悠とか呼びにいくからお前制多迦とか頼むわ」
「あ…うん」
「…緊那羅お前なしたん」
「えっ」
京助が足を止めて少し後ろにいた緊那羅を振り返る
「また何か考えすぎてんちゃうか?」
「そんなこと…ないと思うっちゃ…」
だんだんと小さくなる緊那羅の声
「ま…俺も今回はな…」
「…京助…」
「なんつーか…あー…」
鍋を持っていていつもみたいに頭がかけない状態の京助が何か言おうとしているのを緊那羅が待つ
「…なんだ…その…」
「うん…」
「緊那羅…が」
「…うん…」
「早く言うよろし」
右肩から突如した声
「じれったいあるよ」
今度は左肩から
「お前ら…;」
声の主は京助の背中から肩に移動した阿分だった
「京助意外とヘタレある」
「な…っ;」
「ビシッと決めるあるよ」
「何をだよッ!!;」
左右から言われて京助が怒鳴る
「つか離れろ;」
「嫌ある」
「我らの居場所ある」
阿分がきっぱり言い切った
「重いし暑ぃんだよっ; 一匹引き取れ緊那羅;」
「えっ;」
京助が左肩を緊那羅に向けると乗っていた分と目があった
「…くるっちゃ…?」
緊那羅が声をかけると分が京助を見上げる
「行きたきゃ行きゃいいし行きたくなきゃしゃぁねぇ」
京助が言うと分が今度は緊那羅を見るとぴょんと緊那羅の肩に飛び移った
「くすぐったいっちゃ」
緊那羅の肩に移った分の尻尾が緊那羅の頬を撫でる
「あー…軽くなった」
茶の間の襖の少し開いていた隙間に足を突っ込んで京助が器用に襖を開けた
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること 作家名:島原あゆむ