【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること
矜羯羅の手が制多迦の袖を掴んだ
今まで見たことのない矜羯羅の顔
いつも凛としている矜羯羅の顔ではなく今にも泣き出しそうな顔で唇を噛み締めている
「…んがら?」
制多迦が名前を呼ぶと袖を掴んでいる矜羯羅の手に力が入った
「…うしたの? 辛いの? 熱…」
戸惑いながら制多迦が矜羯羅の顔を覗き込んで聞くと矜羯羅が無言で制多迦の肩に頭を着ける
「…んがら…」
制多迦が空いている手を矜羯羅の頭に置いてゆっくりと撫でた
「…とんに寝よう? ね?」
矜羯羅からの返事はない
こんな矜羯羅見たことない
どうしていいかわからない
でも何故か嬉しいと似た感じがする
今まで矜羯羅がこんな風にしてきたことなんかなかった
なんだか求められている気がして制多迦の顔が綻ぶ
「…んがら…あのね」
矜羯羅の頭を撫でながら制多迦が優しく話しかける
「…くは矜羯羅が泣いてたりしても慰めるとか泣き止ませるとかはできないけどね…一緒に泣くことはできるから…あとね一緒に笑ったり一緒に考えたり一緒にご飯食べたり…」
制多迦が矜羯羅の耳元でゆっくりと話す
「…くが矜羯羅にしてあげられること…これしか思い付かなくて…だけどこれは僕がしたいことでもあるから…だからね…だから一緒にいたい…矜羯羅より強くても矜羯羅より弱くても嫌なんだ…矜羯羅と一緒がいい…」
「…っ…」
矜羯羅が息を吐いた
「…んがら…駄目…かな…」
「僕も…っ」
制多迦が聞くと矜羯羅が急に顔を上げ驚いた制多迦が目を大きくする
「僕も制多迦と一緒がいい…先をいくのも後をいくのも嫌だ…一緒がいい…っ…」
また見たことのない矜羯羅
眉を下げて必死に言う矜羯羅を見て制多迦が微笑んだ
「…ん」
ヘラッと笑った制多迦を見て矜羯羅も眉を下げたまま微笑む
「…くは矜羯羅と一緒にいるから」
「僕も制多迦と一緒にいるよ…」
制多迦が矜羯羅を抱き上げると矜羯羅が制多迦にすりよった
ふと制多迦が視線を感じて振り向く
「…かえり」
「…おう;」
作品名:【無幻真天楼 第二部・第一回・参】そして僕にできること 作家名:島原あゆむ