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『喧嘩百景』第8話銀狐VS田中西

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 西は浩己の前に立ちはだかって銃を突き付けた。
 ――この女――。
 浩己は俯いたまま西との間合いを計った。
 ――浩己。
 頭の中に裕紀の声が響く。
 ――ああ。
 浩己は飛び起きて足を振り上げた。
 西の手から銃を弾き飛ばす。
 「物騒な玩具(おもちゃ)使いやがって。――動くなよ」
 裕紀は西から奪った銃を彼女に向けた。
 しかし、西はそんな警告など聞きはしなかった。
 浩己は殴り掛かってきた彼女の手を取って投げ飛ばした。地面に叩き付けることもできたが、やはり女の子の小さな手がそうさせることを躊躇させた。
 ――だめだ。俺たち、やっぱ、甘い。
 西は猫のように身を捻って柔らかく着地した。
 二人はその彼女を追って殴り掛かった。
 裕紀と浩己のよく知っている先輩と違って、西は素手での立ち回りは得意ではないようだった。二人の攻撃を大きく避けて後ろへ逃げる。
 二人は、彼女が逃げるよりも少しずつ多めに間合いを詰めて、彼女の周りのスペースを埋めていった。
 ――もう逃がさない。
 裕紀と浩己は僅かな時間差を置いて巻き込むように、残った西の空間を閉じに掛かった。西の身体の左右から腰を回して蹴りを入れる。逃げ場所はもう少ない。一撃目を躱したとしても二人とも二撃目を用意している。怪我しない程度に―――。
 しかし。彼らは二撃目を放つことができなかった。
 一撃目を躱した西の立ち位置に沙綾が立っていたからだ。
 ――何で。
 二人は回し蹴りの途中で踵を引き付けてその場にしゃがみ込んだ。
 ――何でこの娘(こ)がこんなとこに。
 「全く甘いねえ、銀狐。沙綾ちゃんをただのギャラリーだと思ってたのか?」
「私(わたくし)たちの勝ちですわ」
腕を組んで立つ西の隣で二人のこめかみに銃口を突き付けたのは上品な笑みを浮かべる沙綾の方だった。

★             ★

 「先輩っ、知ってたんですか、この女」
 翌日図書館の五階で、裕紀(ひろのり)と浩己(ひろき)はさっそく西(あき)と沙綾(さや)に再会した。
 「田中の西さんと言えば、二中(にちゅう)じゃあ知らない者はいないんだけどねえ」
「あんたたち知らなかったの」