小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ハティ・フローズヴィトニルソン

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

なんだか見たことあるような顔である。というか杉山だ。隣のクラスの、だ。

「あー・・・あれ、あなたが書いたのですか」 ・・・気付かなかった。うかつだ。

私は「わざとでしょう。」という杉山の問いに、咄嗟に返してしまった。

「いや、あれ、ごめんなさい、誰が書いたか気付かなくて嫌がらせしたのがあなたでした」

あー、私は日本語の組み立てがダメだ、これでは伝わらない。本当のことを言っているのだが。
いかんせん、私には友達がいないので他人との会話をほとんどしたことがないのだ。

「まあ、どういう反応をするか見てたんだけど・・・すばらしかった。」

この人は頭がおかしい。係わり合いにならないほうがいいと思う。

「死ねばいい」と思わず口に出してしまった。
「友達になりましょう」とか言ってやがるので、私は「死ねばいい」と繰り返して、家に帰った。
死ねばいい、か。ほんとうに、死ねばいいのに。私も。

ロケットを作っている。
強度はどんなもんでいいのかいまいちわからない。とりあえず0atom 0ケルビンに耐えられて、
第一宇宙速度を出せればいいのだろうか。言うだけなら簡単だ。

打ち上げは一度だけだ。失敗は許されない。なぜならお金がないから。
そしてきっと、誰かに気付かれてしまうから。 なんてのは自意識過剰かな?
でも、私のちっぽけな美学においても。打ち上げるなら一度だけと決めているんだ。

小さくてもいいんだ。・・・しかし、コントロールができなくてはならない。
電波で操縦する場合、地球の電離層を突き抜けていくわけだからバカデカいアンテナが必要になる。
自動操縦でいいかな。ロケットを小惑星にぶつけるのだ。

数千年に一度、地球のそばをかすめていく・・・といわれている小惑星にだ。ロケットをぶつけたらどうなる?
小惑星が軌道を変え、地球に落ちてくるか?
・・・それではだめだ。小惑星ごときでは、人類の8割も殺せやしないと思う。
やるなら皆殺しだ。一人も欠いてはいけない。
ならばどうするか。月にぶつけるんだ。

太陽系の遙か彼方からいらっしゃった小惑星様に、まずは私の作ったロケットを一発、ブチコンデ差し上げる。
小惑星様は軌道を逸らす。月の方向に。月の重力に捕らえられたらこの計画の5%は成功だ。小さいけれど大きな一歩。
月に小惑星がぶつかる。月の公転する速度ベクトルに対して真逆に小惑星をぶつけられれば一番なのだが。
月の公転周期は狂うだろう。絶妙なバランスを保っていた地球との距離と速度、重力の均衡にヒビが入る。

月が地球に落ちてくる。

そーんな中学生みたいな妄想を実現するために、私はロケットを作っているのだ。
実際はロケットが打ちあがるのかすらわからないし、
小惑星にロケットをぶつけられたとしても三体問題は解けないのでどこに行くか全く想像がつかない。
タイムリミット・・・小惑星がやってくる日まで、ちょうど1年。

ところで、気になったことがある。
「なんであなたは私にラブレタアを書いたのですか」と、杉山に問いただした。

「本当に読んでないんですね、内容丸写ししといて」と返された。
そういうことではなく。
「きっかけがあるハズです。何事にも。」

そう。大切なのは“きっかけ”である。
“理由”なんていうのは容易に想像できる。
それよりも私が知りたいのは“きっかけ”。

「じゃああなたがロケットを作っているきっかけを教えてください。」

そうきたか。これは隠しカメラを探知するレーダを買う必要があるな。

「宇宙に憧れているのです。はい、あなたは?」見え透いた嘘をついてみた。

「へえぇ、じゃあ、僕は『来年小惑星が来るから』ってトコかな。」

ああ、そこまでわかってらっしゃるんですか。もう気持ち悪いを通り越して殺したい。

「ああ、僕はあなたに殺されたいんですよ。全くもって。」・・・こいつは私の心の声が聞こえるのだろうか。
「そしてあなたを殺したいのです
 ・・・そう、全てのものは、壊すこと、殺すことによってその所有権が決定するのだと、思いませんか!」

吐き気がするぅ、。私は思わず手を口に当てた。

「もう、チカズカない、で。」「・・・・」

  「もう、 近づかないで下さい!!! 」

「・・・はい。」 話しかけたのは、私なんだがな。

それから私はその足で秋葉原に行き、盗聴器と隠しカメラの探知機を購入して私の家で使用してみたところ、
盗聴器が3ツ仕掛けられていた・・・運良く、すべて家の外にだ。
私の鞄には仕掛けられていなかった・・・思いつかなかったのか?
・・・いや、私が気付くことを恐れてのことか。まあどっちでもいいが。ん、ちょっとまてよ。
私はそれから家中のコンセントを抜き、蛍光灯を消してから電気のメータを見た。

・・・回っている!! やっぱりか!

探知機は、盗聴器やカメラの出す電波を探知するのだ。つまり、電波を出さない機械は探知できない。
“有線式の”機械は探知できないのだ。(今どきの盗撮・盗聴器は9割方無線なので探知機の購入者は安心してほしい。)
ベッドの下か、机の下か、コンロの裏か、「!!!」 ゴキブリがいた。・・・私もゴキブリにビビるんだな。初めて知った。

ああ、なんだ工房だな。冷静さを欠いていた。会話の内容を聞いてねえのかよ。
工房には隠しカメラが2つセットされていた。どっから入ったんだ。本気で引越しを検討する必要があるな。

私に盗聴していることを感づかせ、せっかく仕掛けた有線のカメラのありかですらヒントを与えるとは、
どういうことだろうか。あいつの考えてることがわからない。私に殺されたいのか?
疑問を持った時点であいつの策にハマっていると思ったほうがいいだろうか。
私の意識の中にあいつの居場所を作るのが、あいつの目的なのだろうな。

そして1年後、私が作ったロケットは見事に失敗した。
たしかに大気圏の外の、0K0atomの環境には耐えられる設計で筐体を作った。
電磁リレーの類は中に空気が入っているからと思って省いたんだ。
だがしかし問題はその内側、大気圏の一番外、熱圏であった。
3000Kにも達する熱によって機体の素材が伸縮し、どこかのボルトが破断したのだろう。と思う。
機体は爆散し、一部は太平洋に落ち、一部はスペースデブリになった。
私のロケットは三体問題にすらならなかった。

しかし国際問題にはなってしまった。そりゃあ勝手にロケット飛ばせばそうなるわな。
なんか警察とかが現場検証してたっぽいですが、ニュースでとりあげられると即座に
意地悪な過激派テロリストどもが「あのロケットは我々が発射したものだ」と犯行声明を出したのだ。
いや、それ、私のロケットですけど。みたいな。なにがしたいんだろう。バカだな。

まあ、そんなものだ。


 *  *  *

というのがもう、62年前の話になるのだろうか。
今では私はもうおばあちゃんだ。ひ孫もいる。
旦那は4年前に逝ってしまった。こんな私でも他人を愛することだってあるのだ。

・・・杉山、というのが、今の私の苗字、ではない。私は工藤になった。

あのことを思い出したのは、あいつからの手紙。