雨の日に彼女達へ本をあげる
朝から雨が降っていた。
昼過ぎから街の中を歩いてぶらぶらした。広場で何気なく休んでいると
ショートカットのスーツを着た、きれいなセールスウーマンに出会った。
そして別れ際に「男はすべて女の奴隷である」という本をあげてしまった。
あまりにもタイトルが彼女にぴったりだったからである。
別れた後、僕は古くからあるデパートに行った。
階上のほうに大きな書店がある。
エスカレーターを上っていく途中、郷土品を売っているフロアーを通り過ぎた。
そういえば、何年か前ここで、違う女性のために誕生日プレゼントとして
「手作りの線香花火」を買ったことを思い出した。
花火師が作った線香花火だそうで、桐の箱に5本ほど入っていた。きれいだった。
僕は書店のフロア-に来ると文庫本のコーナーを見て回った。
なんだか興味を引くタイトルが見つけられなくて、そのまま写真集のコーナーに行ってみた。
そこには「一度は行ってみたい世界の風景」や
「ここだけは行きたい日本の四季」など、
きれいな写真が載った写真集が積み上げられていた。
あとは「雲」だけの写真や「風」「空」「森」など、若い子にうけそうな写真集もたくさんあった。
僕は写真集が好きだ。
写真集の好きなページを開いて、酒を飲むこともよくある。
その中で、ほとんどが海と雲が溶け合ったような乳白色の海の写真が好きだ。
特に朝方や、霧がかったイギリスの海が好きだ。
そこを古い船で出て行くフイッシャーマンの姿が物語を感じて、なんとなく落ち着く。
時計を見ると8時に近くなっていた。
プレゼントが決まらぬまま、時間が過ぎてしまった。
僕はもう一度文庫本のコーナーに行くと、こんどはタイトルをしっかり見ながら探した。
タイトルが僕と彼女にぴったりと当てはまるやつ。
彼女が本を受け取り、タイトルを見たとき微笑むやつがいい。
何段目かの列の棚を探しているとき、それはあった。
タイトルは「愛には少したりない」・・・少し笑ってしまう。
これに決めた
作品名:雨の日に彼女達へ本をあげる 作家名:海野ごはん