雨の日に彼女達へ本をあげる
「わぁ、ありがとう。じゃ帰りの電車の中で読みます」
彼女は表紙をめくり、目次に目を通した。そして
「男のセックスは強くなくてはならない・・・・」と声を出して読んだ。
「そうなんですか?」といって僕の方に笑いながら聞いた。
僕はドキリとした。
「強い方がいいんじゃないですか・・・・?」
彼女は下を向いてクスリと笑った。
「強いんですか?」
「ためしてみます・・・?」
また、彼女は下を向いて笑った。
「感想は、今度どっかまた偶然会ったときでいいですから」
「じゃ、またどっかで偶然会いたいですね」
彼女の眉間からしわはなくなり、普通のきれいな美人に戻っていた。
雨は少し小降りになっていた。
彼女は本を黒いバッグの中に入れると、僕に向かって言った。
「疲れて見えます?」
「いいや、もう、全然。行ってらっしゃい」
彼女はニコリとすると、人通りのある街へと歩き出した。
僕は、まだ雨の降る広場の空を見上げた。
そして、まだ彼女の余韻の残るその場を立ち去ろうとしないでいた。
その日の夕方、僕はまた違う女性に本をあげることになった。
1日に2度も女性に本をあげるなんて、人生始まって以来だ。
作品名:雨の日に彼女達へ本をあげる 作家名:海野ごはん