雨の日に彼女達へ本をあげる
「大丈夫ですよ。久しぶりに街での飛び込みのセールスやっているけど、
今日は絶好調ですから」
「へぇー、そうなんだ。でもこんな雨の日に美人のセールスマンが来たら、
お店の人も喜ぶんじゃない?」
「美人に見えます?」
「見える、見える。でも、ものすごく気が強そうにも見えるけど」
「やっぱり、よく言われるんです。それで、この前このショートカットにしたんですけど」
と言って彼女は短く切った髪の毛を、自分で掻きあげた。
「じゃ、この前まで長かったんですか?見てみたかったなぁー」
「気が強そうに見えます?」
「見えますよ。はっきり意思を持った、少々のことじゃ折れない女に見えます」
「そんなに・・・この髪形でも見えるんだ・・・」
「美人は気が強そうに見えるのは宿命ですから、気にしなくてもいいんじゃないですか」
彼女はくすりと笑うと
「私、絶対なりたい自分がいるんです」と言った。
「今、その目標に向けてがんばってるんです」とも言った。
それから僕達は仕事の話をした。雨は降り続いていた。
「なんか、変な話になっちゃいましたね。少しはリラックスできました?」
「ええ、私もいきなり話し込んだりして、いい休憩になりました」
僕は自分のバッグを開けると、先ほどまで読んでた本を彼女に差し出した。
「これ、君に似合いそうだからあげるよ」
「えっ、いいんですか?何の本?」
「タイトルは『男はすべて女の奴隷である』村上龍の本だけど、
君にタイトルがぴったりだからあげます」
「村上龍は昔読んだことあるけど、こんな本があったんですね。
そんなにこの本のタイトル私にぴったりですか?」
彼女は笑いながら受け取った。
「ええ、あなたのための本かもしれない・・面白いから読んでみて。
返さなくてもいいから」
作品名:雨の日に彼女達へ本をあげる 作家名:海野ごはん