雨の日に彼女達へ本をあげる
雨の日に彼女達へ本をあげる
その日は、朝から雨がふっていた。
広場はベンチも雨に濡れ、座るところは一つもなかった。
広場の真ん中で噴水が上がっている。雨の日なので遊ぶ子供は誰も居ないのに。
噴水はタイムラグの装置でついてるようで、
水がダンスのように時折パッシャン、パッシャンと舞い上がっていた。
雨に濡れないエントランスで、噴水を何気なく見ていた僕のそばに、
黒い上下のスーツを着た、いかにも、やり手という営業ウーマンが近づいてきた。
濃い目の化粧にショートカットのヘアースタイル。
バッグの中からタバコを取り出すと
僕のすぐそばにある灰皿の横で吸い出した。
今まで、交渉事をしていたのだろうか、まだぴりぴりとした雰囲気が僕にも伝わった。
きれいな顔の眉間にしわを寄せて「疲れた」という顔をしていた。
長い指でタバコを抜くと火をつけて、フゥ~と大きく煙を吐き出した。
黒いバッグを地面に置き、雨に濡れた噴水を見るようで見ないでいた。
次のターゲットでも考えているのだろうか、近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
男勝りの女営業マンというところだ。
久しぶりの美人に僕は見とれていた。ただ、美人にしては疲れすぎて見える。
声をかけようにも、緊張感を漂わせた彼女には近づけない雰囲気があった。
タバコが半分ほどなくなりかけた頃、僕は声をかけた。
「よく、降りますね。営業も今日は大変でしょう」
彼女はこちらを見るとニコリとした。
「なんか、すごく疲れた顔をしてますよ。今日の調子はどうですか?」
彼女は「優しいんですね、気を使ってくれて・・・」と言った。
「そんな美人の方が眉間にしわを寄せて、ため息つくようにタバコふかしていたから
ちょっと気になって・・・」僕はドキドキして言った。
作品名:雨の日に彼女達へ本をあげる 作家名:海野ごはん