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「レイコの青春」 37~39

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 「紹介などにはおよびません。
 あたしゃ、気が短いもので、勝手にはじめてしまいましょう。
 お初に、お目にかかります。
 おやまぁ、ずいぶんとお若い方たちばかりですねぇ。
 まァ、立ち話もなんですから、皆さんがたにはご着席をお願いします。
 まったく場違いにもあたる年寄りが、突然にこんな場所に登場して、
 さぞや皆さん方も驚きのことと思います。
 皆さん方が、働いているお母さんがたの代表であるとしたら、
 何を隠そうこの私は、あなた方の旦那様も含む、
 世の男たち全部をたぶらかすのを仕事としている
 花街の、悪い女たちの、総元締めです。」


 老婦人が、にっこりと笑いながらも、
悠然と、出席者全員を吟味するように眺め回します。
呆気にとられたまま、まだ立ちつくしている数人に向かって、
手で合図をします。
気を使うことなく、早くお座りなさいと、もう一度微笑みました。



 「何事をするにつけても、
 年齢的に偏りすぎるというのは、まことにもってよろしくはありません。
 園長先生と言う尊敬すべき長老を失った今、
 あなたたちにとって、もっとも必要なのは、経験豊かな人生の先輩を
 相談役として、この場に向かい入れることだと思います。
 かく言うわたしは、かつては桐生芸者の元締めで、
 仲町界隈を知り尽くした、飲食業関係の古狸(ふるだぬき)です。
 芸妓名を『八千代』と名乗って通しましたが、
 実は本名も、ひらがなで一文字だけ少ない、「ちよ」と申します。
 どうぞ八千代姐さんと、これからは呼んでくださいまし。」


 「八千代姐さんと呼べ」のひとことに空気が、にわかになごみ始めます。
肩の力が抜けたように、会場のあちこちからは、
含み笑いまでが聞こえてきました。