「レイコの青春」 37~39
「しかし、それにしても・・・
朝一番から電話をかけてきて、
保育園に募金をするから、口座を全額おろせというのは
実に、ただ事ではありませんなぁ。
銀行支店長の山口が、大慌てで俺のところにも
朝早くから、電話をかけてきました。
○○産業の大野や、市議会の高橋のところなんぞにも、
すわ、いち大事の、早急な電話を入れたようですぞ。」
「あらまぁ、
いつも通りに、実に手回しの良い事です。
もう、皆さんとは連絡がお済みですか。
それならば、ずいぶんと、手間がはぶけてこちらも大助かりです。
でも、結局、300万円だけは、出資することになりました。
・・・あら、ご紹介が遅れました。
こちらは、なでしこ保育園で熱心に活動してらっしゃる
靖子さんと陽子さんのお二人です。
ねぇ可愛いくて、とても美人でしょう、お二人とも。
私の若いころに、生き写しだとお思いになりませんか?。」
「またまた・・・お母さんは、悪いご冗談を。
八千代母さんの若いころから見れば、まだまだ、
こいつらは日光の手前です。
(日光街道で、日光のひとつ手前が今市・いまいち・です)
月にスッポン。
月に叢雲(むらくも)花に風。
月夜に提燈(ちょうちん)ってか・・・
お母さん!いったい私に、何を言わせるのですか。
これでは、私の狼狽ぶりが、丸だしの、丸裸です・・・
いやいや、おっしゃる通り、
こちらの若いお二人も
ともに、存分にお美しいかぎりです」
「相変わらずですねぇ、あなたは・・・・
女性を褒めるのが下手くそで。
・・・まったく、おいくつになられても変わりませんねぇ。
まぁ、よござんしょ。
短刀直入に、お話をまとめてしまいましょう。
聞いての通り、最近になってから
認可保育所を作るという、こういう若い人たちとお付き合いを始めました。
難問を抱えながらも、ひたむきに頑張っている
なでしこ保育園の活動ぶりには、私も共感する部分がとても増えて来て
すこぶる、応援などをしたくなりました。
それならばと、不足をしている建設資金に
全額を出資いたしても良いと、そんな決心もいたしました。
ところが今朝、その件を銀行に相談をしたところ
支店長の山口さんから、全額では困るということになり、
泣く泣く・・・300万だけをとりあえず出資をするということで
銀行さんとはお話がつきました。
ですが、まだ、2000万以上も建設資金が足りないそうです。
ついてのお願いと言うことで、
昔の、出世払いのツケなどを、実はまとめて頂きに
参上をいたしました、という次第です。」
「わかりました。
そう言う趣旨であるならば、いちもにもありません。
いくらでも皆さんを、応援をしたいと私も思います。
で、とりあえず、どのくらい用立てをすればいいでしょうか、
具体的な金額などは?・・・お母さん。」
そう言いかけた社長の言葉を
八千代姐さんが、にこやかに、かつ、毅然として遮ります。
作品名:「レイコの青春」 37~39 作家名:落合順平