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「レイコの青春」 37~39

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 「誤解をしないでくださいな。
 貴方からの、野暮なお金などは、本日はいりません。
 今日あなたに、是非ともお願いをしたいのは、まったく、別の話です。
 この若い人たちが、
 これからあちこちへ募金活動に回る際に
 それへの先回りをして、それなりの便宜を図っておいてほしいだけです。
 あなたから、はした金などをもらおうなどとは、
 これっぽっちも考えてはおりません。
 出世をしたら払ってくださいと、あの時はお願いをいたしましたが、
 この程度のことで、全部払ってもらおうなどとは
 私は、全く考えておりません。
 たくさんいらっしゃるお友達などにも、よろしくと、
 もう一言だけ、お口添えをお願いできれば、それだけでもう充分です。
 では、お手間をとらせまして、ありがとうございました。
 本日は、こんなところで失礼をしたいと存じます。
 お忙しいのにもかかわらず、私どものために
 ありがとうございました。」


 すっと立ち上がった八千代姐さんが
呆気にとられたまま、先刻より立ちつくしている
秘書室長へ、もう一度、より丁寧に頭を下げました。
退室の直前に、もう一度社長へ向きなおると、
あらためて艶やかな笑顔を見せました。
その後ろを追って、急いで退席しようとした陽子を
、社長が小声で呼び止めました。
財布から数枚の紙幣を取り出すと、すばやく陽子の手の中へ
滑りこませます。



 「これで何か旨いものでも、
 八千代母さんと、君たちで喰ってくれ。
 いやいや、余計なことは聞かないでくれたまえ。
 母さんには内緒で、黙って受け取ってくれ。」


 「・・・あらまぁ・・・
 やっぱりそんな関係だったんですか?」


 「し、失礼な・・・
 馬鹿をことを言っちゃあ、いかんよ君。
 あの八千代母さんには、桐生中の名士や財界人のほとんどが、
 若いころに呑み始めた折りに、一通りの面倒を見てもらっているんだ。
 長年にわたって、ひとりで花街を仕切ってきた『仲町の大女将』だ。
 俺たちが貧乏学生だった頃にも、出世払いでいいからと、
 粋も甘いも遊び方も、そのすべて教えてくれた、青春時代の大恩人なんだ。
 おかげで、俺たちの人脈が若いころからそうやって出来上がったんだ。
 花街を一手に支えたあの人は、俺たちの青春までも支えてくれたのさ。
 ずいぶんと世話になったんだ・・・
 おい、ただし断っておくが・・・
 いまだに純粋で、清い関係は保ったままだぞ。
 寅さんのマドンナと、おんなじなんだぞ。
 俺たちのマドンナなんだぞ、
 あの、八千代母さんっていうお人は。」


 「あら、
 そうすると、私たちの八千代姐さんは
 これからは・・・仲町の母から、桐生の母になるというわけですね!」

(40)へつづく