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「レイコの青春」 37~39

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 八千代姐さんは、着物の裾を合わせると
涼しい顔をしたまま、なにごとも感じさせずにしゃなりとして歩き始めます。
今度は、本社の受付嬢たちが極端なほど、緊張をしきっていました。
八千代姐さんがやさしく声をかける前から、すでに受付のお嬢さんたちは、
直立をしたまま、顔色はまっ青にかわっています。


 エレベーターからは・・・・
連絡を受けて飛んできた様子丸出しの、秘書室長が、
ハンカチで上気した頭の汗をふきながら、その低姿勢を保ったまま
こちらへ向かって飛んできます。



 「ほぅら、ごらんなさい。
 ご丁寧なことに、向こうから、ちゃんとお迎えがまいりました。
 皆さん、オドオドしてはなりません。
 もっと胸をお張りになって・・・
 あら、まぁ、どうされました?
 それではまるで、借りてきた猫の姿勢です。
 此処に至って遠慮することなどは、これっぽっちもありません。
 よろしいですか、皆さま。
 こんな時には、女らしさを、より一層に強調をしてくださいまし。
 もっと、しゃんと胸をお張りになって・・・
 そうですね~ 、乳首がしっかりと天井を向くまで、
 背筋をピンと伸ばしてくださいましね。
 女らしく、艶やかに、綺麗な姿勢でまいりましょう。
 あらまぁ・・・
 私としたことが、
 すこし表現が、露骨すぎたかしら」


 最上階にある社長室では、
貫禄たっぷりの商工会議所の会頭が、そわそわと
八千代姐さんの到着を、落ち着かない様子で待ち構えています。
その会頭も、八千代姐さんの顔を見るなりに、こちらも硬直をして、
直立不動で立ち上がります。


 
 「あらあら、お気遣いなく。
 それでは、こちらのほうがかえって恐縮をしてしまいます。
 どうぞ、お座りくださいまし。
 本日は、挨拶だけの、ほんの野暮用のみの、お邪魔です。
 早々に失礼する予定でおりますので、
 どうぞ、お気づかいなく。」


 「いやいや、話の内容は・・・
 先ほど事務局にも確認を取って、おおまかには聴いております。
 それにしても、天下の八千代母さんたるお人が、
 これほど若い者たちの、保育園事業に肩入れをなさるとは、
 まさに青天の霹靂ですなぁ~。
 知らぬこととはいえ、若い皆さんがたにも
 大変、事務局が失礼をいたしたようですな~。
 まぁ、まぁ・・・どうぞ、どうぞ。」


 社長の動揺した目が、八千代姐さんの後ろで小さく隠れたまま、
固まりきっている靖子さんと陽子へ、しきりに座るようにとすすめています。