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ココロを持った人形

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 お母さんが帰ってくる前に人形は直った。きっと、すごく喜んでくれるだろう。
 わたしが作った二番目の人形。でも、本当は最初の人形もお母さんのために作っていたんだ。

 わたしはお父さんが家に帰ってこなくなったのが仕事のせいじゃないことを知っている。お父さんがお母さんとそっくりな顔の翔子叔母さんと暮らしていることも知っている。毎日たくさんのお薬を飲まないとお母さんが笑えなくなっていることも知っている。

 だから、わたしはお父さんを嫌いになり始めていた。
 そのココロはどんどん大きくなって、(大好き)っていうココロを黒く塗りつぶしていく。それが凄く怖かった。
 去年、わたしはそのココロを吐き出すように、紙に『お父さんなんか大嫌い』と書いてみた。そうしたら、気持ちがスーッと軽くなった。だけど、その紙を捨てたり燃やしたりすると また自分の中にそのココロが戻ってきたから、机の中にずっと隠し持っていた。
 
 ちょうどその頃、わたしは人形作りに挑戦していた。お母さんの誕生日に手作りのプレゼントをあげたかったんだ。
 そして、ふと(この人形に悪いココロをあげちゃったらいいんじゃないかな?)と思って、人形の体の中に小さく折り曲げた紙を入れてみた。そうしたら、そのココロはわたしの中からすっかり消えて人形のものになっていた。
 完成した人形はお父さんに送った。わたしの代わりにあの人形はずっと「お父さんなんか大嫌い」と言い続けている。だから、わたしはお父さんを好きでいられるんだ。

 二番目の人形はお母さんの誕生日に贈った。
 わたしはその人形の中にも紙を入れてしまった。そこには『さびしい』と書いた。言ってはいけない言葉。お母さんを悲しませる言葉。でも、毎日毎日わたしの中で湧き出てくるココロ。それを人形にあげたことで、わたしはそれまでのように泣かなくなったし、ワガママを言わなくなった。

 三番目の人形にもココロをあげた。
 だから、わたしはカズくんが元気になって欲しいと願い続けられた。


 悪いココロなんていらない。
 お母さんとお父さんとわたしとカズくんが仲良く一緒に暮らせること。
 わたしの願いは、ただそれだけなんだから。

作品名:ココロを持った人形 作家名:大橋零人