ココロを持った人形
「ちょっと おトイレ行ってくるね」
お母さんがカズくんとわたしにそう言って病室を出ていく。
わたしも一緒に行きたかったけど、動けなかった。
今、この部屋にはカズくんとわたししかいない。
なんか息が苦しくなってきたから、窓を開けて外の空気を吸った。冷たい風が気持ちいいけどカズくんには良くないだろうからすぐに閉める。
振り返ると、カズくんがこちらを向いていた。
わたしはコクンと唾を飲み込んで、その目を見つめ返す。
「……新しいご本読まないの?」
「……」
「お母さんが選んでくれたんだよ。『喜んでくれるかなあ』って楽しみにしていたんだよ」
「……」
「お姉ちゃんが帰ったら読んでくれるの? お母さんに『ありがとう』って言ってくれるの?」
「……」
カズくんは何も言わずに私を見ている。
(もしかして……カズくんは人形の秘密を知っているんじゃないの?)
そう思ったらカズくんの目が怖くて堪らなくなって、わたしは病室から逃げ出した。
走っていきたいのを我慢しながら、お母さんのいるトイレへと向かう。
「あれ? 優香もおトイレ?」
トイレから出てきたお母さんがわたしに気づいて いつもの優しい顔に戻る。
「ううん……」
「じゃあ、お母さんを迎えに来てくれたのかな?」
「……うん」
「ありがとうね。じゃあ、ジュース買って行こうか?」
「うんッ」