小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ココロを持った人形

INDEX|6ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 


 ふたつの電車に乗って少し歩くと大きな病院が見えてくる。
 わたしは入口の前で立ち止まってしまったけど、お母さんが手を握ってくれたから前に進めた。

(病院の“におい”は、なんで わたしをソワソワさせるんだろう?)

 そんなことを考えているうちに、エレベーターは五階に着いていた。
 廊下を少し歩いて、お母さんが扉をコンコンと叩いて開ける。わたしはその後ろに隠れるようにして病室に入っていった。

 カーテンを開けるとベッドの上にわたしの弟がいた。
 いつもお母さんが来る時間より遅かったので もう目が覚めていて、こちらをジッと見ている。
 わたしはコートを脱ぎながら その視線から逃れようとしたけどダメだった。

「カズくん、おはよう。今日はお姉ちゃんが来てくれたよ、良かったね」
「……おはよう、カズくん」

 そんな挨拶なんて聞こえないようにカズくんは黙ったまま、わたしを睨み続けている。

 ごはんを食べてもすぐ吐いちゃうので顔も体もガリガリで目だけギョロリと大きい。わたしにとってカズくんは大切な弟だけど、正直言って(可愛いなあ)って思ったことはない。だって、カズくんは一度だってわたしに笑顔を見せてくれたことが無いんだから。
 ううん。たぶん、赤ちゃんの時は笑っていたと思う。カズくんが悪いんじゃない。病気が悪いんだ。本当に可哀そうなんだ。わたしがカズくんだったら、やっぱりきっと笑えない。

 ベッドの横にある台の上にはお花と一緒にわたしの作った人形が置かれている。
 少し千切れかけた人形の首が斜めに垂れていて、ちょうどカズくんの顔を見つめているようだった。

 最近のカズくんは機嫌がいい時が多いってお母さんが言っていたけど、今日は間違いなく不機嫌。新しい本にも見向きもしないし、お母さんが話しかけたって一言もしゃべらない。
 わたしはお母さんの手伝いもほとんどできないし、カズくんに話しかけるなんてこともできるはずがないから、ベッドから離れた隅っこで時間が過ぎるのを待っていた。

作品名:ココロを持った人形 作家名:大橋零人