ココロを持った人形
お母さんと一緒に外を歩くなんて ひさしぶりだったから、これからお見舞いに行くんだっていうのにちょっとウキウキした気分になる。
駅に行く途中で本屋さんに入った。
カズくんはお母さんに字を教えてもらっているから、読み書きは同い年の子よりもできる。だから、お母さんはちょっと漢字が入った本をおみやげに買っていた。
「優香も好きな本選んでね」
お母さんがそう言ってくれたから、わたしは人形作りの本を買ってもらった。もう何冊か持っているけど、もっともっと上手になって大人になったら人形屋さんになるのが夢なんだ。
「お母さん、それ貸して」
「ん? これ?」
本屋さんを出ると、わたしはお母さんのバッグを持ってあげた。お母さんの腕がポキッと折れてしまいそうなほど細くなっているのに気がついたから。
「優香のおかげでラクチンだよ」
そう言って喜んでくれるお母さんにわたしもニコリとしようとしたけど、ちょっと失敗したからバッグの中を覗き込むようにして顔を隠す。
そこではわたしの作った小さな女の子が笑っていた。
「いつもその子はお母さんと一緒なんだよ」
わたしが人形を見ていることに気がついたお母さんが言う。
「大切にしてくれてありがとう、お母さん」
「だって、お母さんの宝物だもん」
お母さんの優しい笑顔。
でも、わたしはもっともっと幸せそうにふっくらと笑っているお母さんの顔を知っている。わたしが小さい頃のことだからはっきりと憶えてはいないんだけど、わたしの部屋にはその時の写真が飾ってあるんだ。その写真にはお母さんとお父さんがいて、真ん中で小さなわたしが笑っていた。