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偽装結婚~代理花嫁の恋Ⅴ【本物のウェディングベル】

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 最後にひときわ大きく焔が燃え上がった瞬間、由梨亜は鋭い叫び声を放ちながら、極まった。生まれて初めて経験したその痛みは身体を裂かれるような責め苦にも等しかったけれど、同時にこの上なく魅惑的で甘い責め苦でもあった。
 由梨亜の身体を包んだ焔が今しも燃え上がろうとする間際、三鷹は由梨亜の悲鳴を飲み込むように彼女の唇を塞ぎ、烈しく貪るようなキスをした。
「訊きたいことがあるの」
 ひとときの嵐が漸くおさまった後、由梨亜は三鷹を見上げた。
「何だい?」
 愛おしむような眼で見つめられ、由梨亜は泣きたいような気持ちに包まれた。
 私は本当に彼に愛されていると信じても良いの?
 三鷹の言葉を心から信じてしまいそうな自分時自身が堪らなく怖かった。
「今夜はどうしてスーツを着ていたの? 今朝、家を出るときに着ていた服とは全然、違うけど」
「―」
 この時、いつもの由梨亜であれば、三鷹の端正な顔がほんの一瞬だけ表情を失ったことに気づいただろう。
 だが、このときの由梨亜は当然ながら、情事の深い余韻からまだ到底、抜け出せてはいなかった。
 三鷹が妖艶に微笑んだ。それはこの世の女という女であれば、誰もが虜にならにずにはいられないほど悪魔的な凄絶すぎる美しい微笑だった。これまで彼がこんな露骨すぎる誘惑めいた微笑みで由梨亜を誘ったことはなかった。
 三鷹は小首を傾げた。
「今は俺以外のことは考えないで」
 ハスキーな声が耳朶を掠める。彼は下になった由梨亜の腰を抱え、両脚を自分の身体に絡めさせた。かと思うと、次の瞬間には由梨亜は最奥まで一挙に刺し貫かれた。
 あまりの衝撃に眼裏が一瞬、白く染まり、意識が遠くなった。
「でも―」
 由梨亜がそれでも意思の力を総動員して何か訴えようとするのに、彼はゆっくり猛り立った剛直を出し入れする。
「ここが由梨亜のいちばん感じやすいところだろ?」
 顔を覗き込まれ、由梨亜は真っ赤になって横を向いた。
「三鷹さん、先に話を聞いて」
 由梨亜が懸命に訴えても、三鷹は素知らぬ顔で鋭い切っ先を由梨亜の感じやすい内奥にすりつけてゆく。
 続けざまに抽送を繰り返され、由梨亜は満足に言葉を紡げなくなった。二人の身体が重なり合った接合部が灼けるように熱くなっている。既に何度か経験した切なさが再び彼女の下半身を襲おうとしていた。
「お願い、話を―」
 言いかけた由梨亜は、唇を狂おしく奪われ、必死の訴えは烈しいキスに飲み込まれた。そのまま幾度めかの絶頂を迎えた由梨亜は、烈しい快楽と官能の波に揉まれ、背広についての疑問どころではなくなってしまった。
 初めて男に貫かれ、ぐったりとベッドに横たわる由梨亜は、さながら一匹の蝶であった。その夜、美しき蝶は夜通し、何度も大きな焔に飲み込まれた。地に落ちる寸前、蝶は確かに光の渦を見た。光の渦は由梨亜が貫かれて絶頂を迎える度に瞼の奥に現れ、信じられないほどの強烈な快感と男への愛おしさをもたらしながらも、儚く消えていった。
 三鷹は荒々しく由梨亜を貫きながらも、けして優しさを失わず、先へ急ごうとしない。初めて男を迎え入れる由梨亜の身体を気遣いながら、少しずつ彼女の身体をひらいていった。
―私も三鷹さんを愛している。
 三鷹に抱かれながら、由梨亜は涙を流した。それは破瓜の痛みによるものというよりは、嫌というほど悟ってしまった真実とやがて来る別離の予感ゆえであった。

 翌朝、由梨亜はまたしても寝過ごしてしまった。昨夜は朝まで三鷹に何度も抱かれ、烈しく求められた。あまりの甘美で烈しい肉体の責め苦に、最後には意識を手放してしまったほどだ。
 昨夜の出来事を思い出し、由梨亜は恥ずかしさに頬を赤らめた。三鷹は自分のことを淫らな女だと呆れたかもしれない。初めてのときは痛いという知識くらいは持っていたが、正直、痛みもさることながら、そちらよりも気持ち良さや快感の方が強く感じられたのだ。
 初体験ではあまり感じないって何かの本で読んだのに、由梨亜は昨夜、三鷹に抱かれて、あんなにも感じてしまった。もしかしたら、自分はとんでもなく淫乱なのだろうか。
 埒もない不安に紅くなったり蒼くなったりしながら、由梨亜はベッドの上に上半身を起こした。その拍子に、下肢を鈍い痛みが走った。
「―痛っ」
 思わず声を上げてしまい、由梨亜は眉根を寄せた。今度は用心しながらゆっくりと動いたけれど、それでも下半身が身動きする度に悲鳴を上げる。
 由梨亜が眠っていたのは当然ながら、三鷹の寝室のベッドであった。由梨亜は頬を染めながら、三鷹の部屋を初めてゆっくりと見回した。ベッドはダブルで、一人眠るのは勿体ないほどの広さだ。ブルーとホワイトのストライプ模様のリネン類で纏められている。
 部屋の片隅には木製のテーブルがあり、小さな液晶テレビとノートパソコンが整然と並んでいた。後は作り付けの衣装箪笥が一つ。
 仕事は書斎で行うのだろう。寝室の方には余分なものは殆ど見当たらなかった。淡いブルーのカーテンのかかった窓際に軽量のライティングデスクが設置され、読みかけらしい文庫本が無造作に置かれていた。
 ふと興味を引かれて近寄ってみる。カバーのかかった文庫本の上に一枚のカードが添えられていた。ホワイトの名刺大のカードは周囲を金の繊細な蔦模様が飾っている。
―今日は、どこかに美味しいものでも食べにいこう。それはそうと、身体は大丈夫? 夕べはかなり無理をさせてしまった。初めての君には堪えたのではないかと心配している。                三鷹
 この字は入院中の母に贈られた花かごに着いていたカードに記された文字と一致する。どちらも三鷹が書いたものだから、当然といえば当然ではあるけれど、なかなかの達筆だ。
 流れるような筆致でありながら、雄々しい。精悍さと優美さをほどよく調和させている三鷹の美貌ともあい通ずるものがある。
 改めてカードを読み直し、由梨亜はまた頬を上気させた。
―身体は大丈夫?
 最後の部分はかなり意味深な科白だ。深い仲になった二人にしか通じない秘め事めいたものを感じさせてしまう。
 由梨亜は誰もいるはずがないのに、頬を染めたまま周囲を慌てて見回した。
 頬が熱い。両手で頬を押さえ、小さな息をつくと、身体に負担がかからないように用心しながらベッドから降り、リビングに向かった。キッチンで熱いコーヒーを淹れ、ミルクだけを入れて飲んだ。この様子では到底、バイトには出られそうになく、やむなく携帯でバイト先に電話をして、今日は都合で休ませて欲しいと告げる。
 とにかく母の見舞いにだけは行きたかったので、時間をかけて支度をし昼前にマンションを出た。
 病室にはまたしても母はいなかった。ナースステーションに行くと、今日は種々の精密検査が行われるので、今は階下に降りているという。
「経過も良いので、今日の検査で特に異常がなければ、二週間後の退院も本格的に決まりそうですよ」 
 すっかり顔見知りになった看護士長が笑顔で教えてくれた。
「そんなに早く退院できそうなんですか?」
 当初は短くても二ヶ月と言われていたはずなのに、二週間後ということは実質、一ヶ月半ということになる。