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エイユウの話 ~春~

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「それにしても、珍しいよなぁ」
 思わず零れただけのその言葉に、キースが敏感に反応した。
「髪の毛のこと?」
 たったあの一言だけでわかってしまうようだ。琴線に触れたかと、ヒヤリとしながらキサカは肯定する。
「ああ。本物の金髪なんて、生まれて初めて見たぜ?」
 今の言い方では多少誤解が生まれるかもしれないが、この世界に金髪は数多くいる。では何故キサカが見たことがなかったのかというと、理由は至極簡単なものだったりした。
 一言で言えば、人種の違いである。
 近年まで戦争が行われていたため、統一国家となった今でも、人種によって生活区域が分かれていた。中でもアルディとジャームは、今でも生活区域がくっきりと分かれている。しかも先述したとおり、通常金髪のアルディは染髪してごまかすのだ。そのため、アルディの若者には金髪を知らない者も多い。下手すれば、その髪色すら知らない者までいるほどである。
「染めねぇの?」
 琴線ではないと解ったキサカは、当然と思える意見を告げる。するとキースは髪をクシャリと掴んだ。長くもないまっすぐな髪は、それだけでクシャリと曲がる。泣きたいとも悔しいとも切ないとも、どれとも取りがたい複雑な表情になった。
「染めたいとは、何度か思ったけどね」
 魔力の量というのは、基本的には純血であればあるほど高くなる。もちろん最高術師であるキースも純血で、だからキースの髪の色は彼の魔力の色なのである。高すぎる彼の魔力を上回るほどの染髪技術のある法師がおらず、染めることも叶わなかった。それが染めない理由だ。染髪法師は専門役職であり、誰もがそれを使えるわけではなかった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷