エイユウの話 ~春~
「で、緑の魔女(みどり・の・まじょ)は?」
唐突に自分の称号を言われ、ラジィは目を丸くする。素っ頓狂な声まで出してしまった。慌てて口を押さえて顔を赤くする。その様子をキサカはまたケタケタと笑った。とはいえそこまで言われてもすね続けるほど彼女も子供ではない。恥ずかしく感じたのだ。笑う彼を恨みがましくじっと見ていた視線を外し、恥ずかしさを紛らわした。そしてキサカの声に負けないように、声を張る。
「ら、ラザンクール・セレナ」
その名を聞くと、スイッチが切れたように唐突に笑いが止んだ。そしてまじまじとラジィを見る。「何よ」とラジィが言う前に、彼が口を開いた。
「セレナ・ラザンクールじゃねぇの?」
キサカの疑問ももっともな話だ。ラザンクールの方はともかく、セレナは姓より名に多い。ラジィは鼻を鳴らしてから、それに返す。
「よく言われるけど、セレナって言う名前のほうが後にできたのよ。元は苗字なの」
面倒臭いために、こんな口調なのではない。強気な態度を取れるようになったのに、鼓舞しているだけだ。
ラジィはキースの隣に座り、キサカはその反対側に寝転がった。六角形の額縁から、鮮やかな青が彼等に降り注ぐ。その中で三人は授業中であるのも忘れ、能天気に話し続けた。
春の程よい陽だまりが、とても心地よい中庭。ありがちな導師の悪口を話しながら、ケタケタと笑いあう。笑うたびにサラサラとゆれるキースの綺麗な金髪に、キサカが感心した。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷