エイユウの話 ~春~
「解りません」
「解りません?」思わず三人は口をそろえて、彼女の台詞を復唱する。解らないというには、昨日の忠告はあまりにも具体的過ぎた。三人はお互いの顔を見てから、視線を彼女に戻す。三人の疑問に気付いたのか、彼女は慌てて付け足した。
「ああ、そうでは無くて!その行動を起こした結果、なんだか良くない事が起こるというくらいにしか解っていないという意味で・・・」
どうやら彼女は疑問を抱かれているのではなく、怒りを覚えられているのだと思ったようだ。手がパタパタとせわしなく動いて、彼女の不安を体現している。
「大丈夫だよ。怒ってるわけじゃないから、落ち着いて」
キースの柔らかい言い方に、アウリーは平静を取り戻す。その顔は慌てたせいか、ほんのりと赤くなっていた。人と話すことになれていない彼女は、どうにも混乱に陥りやすいらしい。彼女はたどたどしく、続きを話し始める。
「私の予想が当たったためしなんか無くて、でも、もし万一当たったらって思うと・・・」
「報告すべきと判断したわけか」
キサカの偉そうな物言いにアウリーはビクリと動いた。決して敵意を抱いているわけではないが、彼の言い方は慣れないと厳しく聞こえてしまう。とくにアウリーのように気の弱いものなら、なおさらだ。
「キサカ、ちょっと」
アウリーの怯えっぷりに耐えかねたのか、ラジィがキサカに声をかけて席を立つ。不機嫌極まりない顔になったキサカは初め、動こうとはしなかった。しかしアウリーの怯えに遅れて気付き、ラジィが席を立たせた理由が解ってからは、素直に彼女に従う。
席からだいぶ離れたところラジィが足を止めて、キサカを見た。次の台詞の予測が立ったキサカは、少しかったるそうな顔をしている。彼の性格には一段と説教を嫌う傾向があった。きっと会って数日のラジィだって、解っているだろう。が、彼女が気にかけていたのは、キサカの事などではなかった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷