エイユウの話 ~春~
座席に戻ったキースは、心の欠陥にフォークを渡してから着席する。続いてキサカが座ると、ラジィが口を開いた。
「彼女ね、アウレリア・ラウジストンって言うんですって」
「へぇ、アウリーっつーのか」
キサカが彼女をいきなり愛称で呼んだのは、決して慣れ慣れしいことではなかった。
この国でアウレリアといえば、日本においての男の子での太郎とか女の子での花子みたいな、国に代表される名前の一つだ。そしてアウリーとは、全国共通のアウレリアの愛称としてポピュラーな名前なのである。
呼んだにも関わらず、特に発展する話もしないでキサカは食事に戻った。くだらない話をしながら、食事を終えて食器を片す。皆が次の授業が無いという事だったので、そのまま彼らは時間をつぶす事にした。
授業が始まると、食堂からがらりと人がいなくなった。今の位置から見える範囲には、はすにずっと行った先の一席に、何やら話しこんでいる女子グループがいるだけだ。彼女達の声は聞こえず、きっとこちらの声も聞こえないのだろうとわかる。
三杯目の紅茶を飲み干したキサカが口を開いた。
「で?昨日の話は何なんだ?」
誰の顔も見ずに呟いたのだが、その質問が適用されるのはアウリー以外にいない。彼女は全員の顔を一通り見てからうつむいた。それでも視線が外れることもなくて、アウリーはどんどん委縮する。そこから絞り出した声は。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷