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エイユウの話 ~春~

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「で?貴方は誰よ?」
 笑い涙をぬぐいながら、腹筋を押さえた彼は、横目で彼女を見やった。寝転がったまま笑い転げていたので、仰向けのままだ。
「ああ、俺?すっかり忘れられてると思った」
「あんたみたいな失礼な男、忘れたくても忘れられないわよ」
 鼻息を荒く鳴らすラジィに、彼はあきれた表情を見せる。彼女の自信過剰はいつものことで、あきれるか嫌がられるかの二つに一つが多い。ちなみにキースは怖がったという珍しいタイプである。
 しかし彼を見たキースが別の聞き方で、少年に名を尋ねる。
「もしかして、明の達人(みん・の・たつじん)?」
 ポカンとするラジィをよそに、少年のテンションが上がる。くるりとうつぶせになって、話す体制になった。
「お、さすがは最高術師仲間!そういうお前は魔禍の喚使(まか・の・かんし)だろ?」
 明の達人や魔禍の喚使というのは、彼らに与えられる称号のことだ。術師であるここの生徒なら、誰しも一つは持っているものである。もともとの始まりは魔物と契約を結ぶ、緑(りょく)の術師が使用した術氏名だと言われている。魔物との契約時に、本名を教えると意識の有無に関わらず操作されることが多いために、それを必要としたらしい。
 盛り上がる二人の少年を前に、先ほどまで威張っていたラジィが顔を高潮させる。キースが知っていたというのも、彼女にとって悔しいところだった。その様子を意地悪げに眺める彼に、ラジィは慌てて取り繕って見せる。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷