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エイユウの話 ~春~

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 席に到着すると、キサカの姿が見えなかった。ラジィに聞いても解らないらしく、キースは彼が心の欠陥を呼んでくることに否定的だったことを思い出す。そして不快になっていなくなってしまったのではないかと、自分の配慮の無さを呪った。が、キサカが食べていた定食の皿一式は残っていて、それが「出て行っていない」ことを証明している。
 ラジィは自分の隣の空間をポンポンと叩いた。
「どうぞ、ここに座って?」
「あ、はい」
 言われたとおり、彼女はちょこんと着席する。本当に彼女は何もかもが小さくて、ラジィと並ぶとまるで姉妹のように見えた。小動物的なかわいらしさが、一挙一動に出ている。深窓の姫という言葉が形を成したようだ。昨日のあの張りつめた雰囲気はもうない。
「彼女のフォークを取り替えてくるよ」
 ラジィに一言そう告げてから、キースは学食のフォーク置き場に向かった。

 キースがフォークを食堂用食器洗浄機にいれ、新しいフォークが置いてある食器置き場のところを探しに行く。箸、レンゲ、スプーンと並んで、フォークを見つけた。複数あるフォークから、一本を抜き出そうとしたとき、真後ろから唐突に話しかけられる。
「なんで心の欠陥の同席を認めたんだ?」
「うわぁっ!びっくりした」
 危うくフォーク入れをそのままひっくり返すところだった。見ずともわかる、声をかけてきたのはキサカだ。振り返ると険しい顔をした彼が、妙に近くにたたずんでいる。先ほどいないと思ったら、彼は飲み物を取りに席を離れていたらしい。右手に赤い紅茶が入った白いティーカップを持っていた。距離が近いのは、聞かれたらまるで「心の導師の娘」を否定しているようにも取れるためだろう。警戒したわけである。
 倒しかけたフォーク入れを元に戻してから、キースはキサカの先の質問を考え直す。残念なことに、答えは出て来なかった。特に、彼が険しい顔をしている意味がわからない。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷