エイユウの話 ~春~
「だからキースに行ってもらったんじゃない。自分で言うのもなんだけど、あたしとかあんたが行ったほうが断りにくいでしょ?」
自分はラジィほど人を引っ張り込む力はないと、謙遜にもならない思いが頭をよぎった。しかし、キースが行ったほうがいいという意見には賛成する。彼は他人を客観的に思いやる事のできる優れた人間だ。キサカすらも憧れる。
反論しないことに驚いたラジィが、やっとキサカを見た。何故こちらを見たのか、しばし遅れてから気付いたキサカは、都合が悪く頭をガシガシと掻く。
「・・・にしても、あいつもあいつだろ。あれじゃほとんどパシリだ」
「それは違うわね」向きを変えたついでに、ラジィは鮮やかな青色のハーブティーをストローですする。グラスの中身の三分の一が無くなった。
「キースはかなり頑固よ。自分の意志に沿わない事は、どんなに命令したって従わないわ」
彼が頑固者だという事はうすうす感じてはいたが、ラジィに対してはそんな事を言わないだろうとキサカは思っていた。今回のことに関しても、彼が賛成しているとは思わなかったのだ。冷静な彼が、何故賛成したのか?キースを見守るラジィをよそに、キサカは一人、考え込んでいた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷