エイユウの話 ~春~
「お前っておせっかいだよな」
「良いでしょ別に。あんなに寂しそうに食べてるんだもの、可哀想だわ」
ラジィの優しさに感づきながらも、可哀想という嫌いな単語を出された事で不快になる。
可哀想という単語は、相手を哀れむ言葉であり、今の自分の立場に対して相手が哀れな位置にいるということで、それはつまり相手を見下している事に他ならない。誰かを哀れに思う事は、相手より自分のほうがマシという自分を守るための感情だ。
もちろんキサカはそれを優しさとして使われる事があることも知っている。しかし、その優しさは哀れなものに手を差し伸べるような優しさで、友情のような綺麗なものとは思っていない。
だから、彼はすこぶる不快になったのだ。背中を見せ続ける彼女に、箸を勢いよく置く。ぱちんと耳を突くような音がしたにも関わらず、彼女はまだこちらを見ない。それも頭にきて、つい口調が強くなる。
「個人の意志かもしんねぇだろ?」
考えられない意見であることはわかっていた。好きで一人で食べているのなら、あんなに落ち込まない。ラジィもすぐそれに気付いた。が、ここでキサカが言いたいことはそういうことではないと、即座に判断して返す。
「それならきっと、キースの申し出を断るわ」
「昨日の様子じゃ、他人の行為をむげに出来るようには見えなかったけどな」
キサカは腕を組んでふんぞり返った。もうラジィが向きを変えることはないと、彼は諦める。予測通り、ラジィの目がキースから離れることはなかった。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷