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エイユウの話 ~春~

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「キースに一票」
「あんたは黙ってなさい」
 キサカを叱ったラジィが再び後ろを振り返ったので、二人の視線も自然と心の欠陥へ行く。彼女は寂しく一人で昼食をとっている。先ほどよりも暗雲立ち込めた状態で、鮮やかなはずの橙色が、くすんだ茶色に見えてくる。周りの生徒たちも、何事かと彼女に視線を向けていた。それも彼女を落ち込ませている一因だと三人はつい思ってしまう。
「ねぇ」ラジィの口切に、キースは素直に、キサカは嫌そうに反応した。言葉の続きを聞かなくても、楽しそうな彼女の顔を見れば、今日会ったばかりの人でもすぐに解るだろう。彼女は視線を心の欠陥に向けたまま話し続ける。
「一人でご飯を食べるのって良くないんですって」
 ラジィの畏まった言い方に、キサカは「やっぱり」と溜め息をもらし、キースは「やっぱり」と表情を明るくした。正反対の反応を見せている二人の表情を見る事もなく、振り返り様にキースに彼女は命令する。
「キース、彼女をここに誘ってきて」
 さすがに意表を突かれたようだったが、キースはすぐに応じて彼女を呼びに行く。彼は拒絶されることになれているが、話しかけるのが苦手なわけじゃない。むしろ誰もでも優しくすることのできる、温和で社交的な性格だ。
 そんなやり取りに、キサカはラジィをもともと半分しか開いていないような目でじっと見た。ラジィはキースを心配してなのか、心の欠陥のほうを見続けている。座る人がいないため、人通りも無く、ごった返す中でキースは悠々と歩いていた。
 彼女の言いなりのキースに辟易しながら、それとなく彼女にそれをほのめかす。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷