エイユウの話 ~春~
去っていく彼女を見送る。聞いていたのか聞いていなかったのか解らないキサカが、彼女の背中を見ながら首をかしげた。疑問を持っているというよりは、多少確信があるといった感じである。
「あ?心の授業って、昼までじゃなかったか?」
その言葉に、キースは頭に全体の時間割を思い返す。全体の時間割を覚えていないラジィは、記憶を探るキースを見てから、伸びをして教室に入った。自分のロッカーを目指しながら、大して考えずに答える。
「彼女、心以外の授業をとっていたんじゃないの?」
「今日の午後は明と奏の実践授業と、お前らの緑、流の専攻授業だけだ。心だけの授業が無ければ、何もないだろう」
そこまで言われて、緑の術師の二人は初めて気付いた。ほかにも準導師たちの授業もあるが、全て上級生向けになる。つまり、彼女は自分の授業が終わった昼間から、今の夕方までずっとここで待っていたと言うわけだ。キサカのように全ての授業を把握できていないのは、各魔術上位十五名のみが受けられる特別授業用の時間割にしか、全授業が記されていないからだ。ちなみに残りの者たちが受け取る時間割は、自分たちの取れる授業だけが書かれているものだ。
導師の娘の謎の助言により、キサカもキースも、ラジィが逃げた原因を問い詰める事をすっかり忘れていた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷