エイユウの話 ~春~
彼女はキースの前に移動する。
「まず、魔禍の喚使さん」
彼女はキースをまっすぐ捉えた。キースは思わず唾を飲む。授業の忠告とわかっているのに、ただならぬ彼女の雰囲気につい呑まれてしまった。それはキサカやラジィも一緒で、誰もいなくなって静まり返った廊下で妙な緊張感が走る。
「貴方は導師様からいただいた物を、決して食べないで下さい」
まさか、流の導師に毒殺されるのではあるまいかとあらぬ不安が過ぎった。授業の多くをサボっているといっても、彼以外の導師から恨みを買う覚えはない。知らないところで恨まれてしまっているのなら仕方ないけれど。
そんなキースをよそに、残りの二人にも忠告が言い渡される。ラジィには「仲間を信用するな」、キサカには「人を助けては駄目」と。
あまりにも不透明な忠告に、三人は言葉を詰まらせる。授業のことではないということしかわからなかった。代表して、最も早く言われ、ショックの抜けきったキースが尋ねる。
「それは、何を根拠に?」
「当たらない私の風晶(ふうしょう)が教えてくれた内容です。でも、用心に越した事はありませんから」
切ない表情で、彼女は自分の風晶ケースを撫でた。風晶とは、水晶をイメージしてもらうといい。緑の木鏡、地の土陣同様、心の魔術で使う道具のことだ。
彼女の心の欠陥という称号は、その当たらない心の魔術が原因となっている。
もちろん当たらないといっても、心の魔術で占った予測と結果が異なっているというわけではない。皆と違うものを見ているということが、心の魔術に言う「当たらない」結果なのだ。しかも彼女の場合、導師の娘であるというのも上乗せして、そんな哀れな称号をくらったというわけである。しかも名付け親が実の親というのも哀れさを引き立てていた。
作品名:エイユウの話 ~春~ 作家名:神田 諷